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改正民法(債権法)10(一応、終了)

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相殺の制限について(改正民法
 
改正前は、不法行為債権は、すべて受働債権(相殺される側の債権)として相殺はできない(債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない)
とされていましたが、
民法では、「悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権」と、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権債務不履行による場合を含む)」については、受働債権として相殺できないとされました。
 
これは不法行為による債権は(比較的)履行してもらう必要性が高いものなので(また、相殺できるとすると不法行為を誘発するおそれもあり)、相殺できないとされていたところ、そのすべてを相殺できないとする必要性はなく、より必要性の高い、「悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権」と、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権(債務不履行による場合を含む)」について、受働債権としては相殺できないとしました。
ただし、「悪意による不法行為に基づく損害賠償請求権」は、「悪意」が加わり、改正前より相殺できない範囲が狭まっていますが、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権(債務不履行による場合を含む)」は、不法行為だけでなく、債務不履行によるものも含まれますので、その分、範囲が広がっています。
 
例えば・・・
Aが自動車を運転中、Bと接触してBに怪我を負わせてしまいましたので、B(被害者)はAに対して100万円の(不法行為による)損害賠償請求権があります。一方、(話し合いの際)Bは誠実でないAに腹を立てて、Aの自動車のバックミラーを壊してしまいましたので、AはBに対して30万円の(不法行為による)損害賠償請求権があります。この場合は、BのAに対する100万円の損害賠償請求権は、「人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権」にあたり、AのBに対する30万円(物損)の損害賠償請求権は、「悪意(害意)による不法行為に基づく損害賠償請求権」になりますので、どちらからも相殺はできないことになります。
もし、Bが、Aの自動車のバックミラーを壊したのが、悪意(害意)までなく、うっかり過失の場合は、Aから相殺はできませんが、Bからの相殺は可能となります(受働債権が不法行為だけれども悪意まではなく、物損だから)。話し合いの際、Bがうっかり過失で、Aの家にある壺を割ってしまった場合も同様。
Bからの相殺は、自働債権が怪我の賠償、受働債権が過失による物損→相殺可
Aからの相殺は、自働債権が過失による物損、受働債権が怪我の賠償→相殺不可
 
BのAに対する100万円の損害賠償請求権が、例えば、乗務員Aの運転するタクシーにBが乗客として乗っているときに、Aの運転不注意のためBが怪我をした場合で、(BはAに対して)債務不履行を主張しての損害賠償請求権でも新民法では同様になります(人の生命・身体に侵害がある医療事故や労災事故も同様)。
(Aは、人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務の債務者にあたる)
 
民法 第509条
次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
一 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
二 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)
 
もっとも、「対抗できない」なので、相手が相殺に応じてもかまわないという場合は、(自働債権、受働債権の区別もなくなる感じとなり)相殺はできます。
 
(相殺に関する経過措置)
附則 第26条
2 施行日前に債権が生じた場合におけるその債権を受働債権とする相殺については、新法第五百九条の規定にかかわらず、なお従前の例による。