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改正民法(債権法)3

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丹波篠山市のマスコット、まるいの、まめりん)

 

改正民法(債権法)1 - 司法書士とくの日記(ブログ)

改正民法(債権法)2 - 司法書士とくの日記(ブログ)

 

<大家さんに関係するもの>つづき

店舗を借りていて、なんらかの理由でその店舗の収益が減った場合、賃料の減額が可能かどうか?

新型コロナの影響で収益が減った場合、家賃の減額か可能かどうか?、新民法で少し考えてみたいと思います。

 

改正前の民法で、減収による賃料の減額の規定は次のものがありました。
(減収による賃料の減額請求)
改正前の民法 第609条
収益を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。ただし、宅地の賃貸借については、この限りでない。
(減収による解除)
改正前の民法 第610条
前条の場合において、同条の賃借人は、不可抗力によって引き続き二年以上賃料より少ない収益を得たときは、契約の解除をすることができる。

 

民法では、

(減収による賃料の減額請求)
民法 第609条
耕作又は牧畜を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。
(減収による解除)
民法 第610条 同じ

 

この規定(新民法)では、土地の賃借で、耕作又は牧畜を目的とするものが対象と、(改正前より)限定されていますので、使えないということになります(この規定は、例えば農地で自然災害のため凶作となった場合などを想定していると思われ、類推解釈するのも無理があります)。

 

次の規定は? 

改正前の民法
(賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等)
改正前の民法 第611条
 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。
②前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

 

民法

(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
 新民法 第611条
 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
②賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

 

改正前は「一部滅失」だけでしたが、「一部滅失その他の事由」と適用の範囲が広くなっています。「その他の事由」により使用収益できなくなった場合の範囲は?

賃借人の責めに帰すことができない事由

使用収益できなくなった部分の割合に応じて、当然、減額

という規定になっています。

 

この「その他の事由」のところに、「新型コロナウイルスの影響で」というのを含めることができるのかどうか?・・・

 

結論

すこし(ではなく大分・・・)無理があるように思われます。

使用収益できなくなった部分の割合に応じて、とあり、当然、減額、と強い効力が与えられていますので、この「その他の事由」は、例として掲げられている「一部滅失」ような、賃借物の建物自体の使用が客観的に物理的にできない場合をさすと思われます(滅失はしていないけれども、水害で使用できない、などが含まれるか?)。賃借物の建物自体ではなく、周りの社会的、経済的な影響や、新型コロナという疫病の影響で使用収益できなくなった場合は含まれないと思われます。

 

結論としては、この規定ではむずかしい。

 (もっとも、経過措置があり、施行日前に締結されている契約については、従前の例による、となっているので、令和2年4月1日前に契約されている賃貸借については、改正前の民法の適用になってしまいますが(附則34条)・・・) 

 

それでは、他の法律の規定では? 

借地借家法32条

建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

 

この規定(借地借家法32条)は、理由が具体的に掲げてあり、長期的な新型コロナの影響で、経済事情が変動し家賃相場自体が下がった場合には適用があるかと思われますが、短期的なものに適用するのはむずかしそうです。

 

やはり現在の法律でどうこうというのはむずかしく、賃借人側からは、大家さんとの交渉になると思われます。

 

臨時的な法律制定も含め、賃料を減額(もしくは補助等の支援)する動きはあるようですが・・・

(記事)

不動産業の北斗アセットマネジメント(埼玉県所沢市)は新型コロナウイルスの感染拡大を受け、所有する賃貸物件に入居するテナントの売り上げの減少幅に応じて賃料を減額する。外出自粛要請で客足が減り、経営が厳しくなった事業者を支援する。

 

・・・新民法を含めて考えてみました。つづく

 

その他の改正民法消滅時効のところ)

・残業代を含む給与(賃金)の消滅時効について

改正前の民法では短期消滅時効の規定で1年となっており、労働基準法で2年になっていました。

改正民法では、短期消滅時効の規定1年は廃止となり、一般規定の5年になりました。

労働基準法の2年はどうなるか?、新民法の5年ではなく、当分の間は3年とする、になったようです(これは、一般規定の民法より、労働者保護の特別法である労働基準法の方が消滅時効が短く、労働者には不利になっています)。

 

改正前の民法

174条 次に掲げる債権は、1年間行使しないときは、消滅する。

1 月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権

(この規定は廃止)

 

労働基準法115条

この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は二年間、この法律の規定による退職手当の請求権は五年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。この二年間→当面、三年

 

・人の生命・身体についての損害賠償請求権の消滅時効について 

①人の生命又は身体の侵害による(債務不履行等)

②人の生命又は身体を害する「不法行為」による

損害賠償請求権の消滅時効は、

①(権利行使できることを)知ってから・②(損害及び加害者を)知った時から5年

①(権利行使できる時から)・②(不法行為の時から)20年

 

債務不履行の場合と、不法行為の場合で異なることはないということで、期間を合わせています。

 

民法166条

債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する

1 債権者が権利を行使することができることを知ってから5年間行使しないとき

2 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき

民法167条

人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権消滅時効については、前条第1項第2号の規定の適用については、同号中「10年間」とあるのは「20年間」とする

 

民法724条

不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

1 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき

2 不法行為の時から20年間行使しないとき

民法724条の2

人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権消滅時効についての前条第1号の規定の適用については、同号中「3年間」とあるのは「5年間」とする

 

つづく

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