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改正民法(債権法)7(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)

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改正民法(債権法)6 - 司法書士とくの日記(ブログ)

 

改正民法の時効のところ

(書面による)協議を行う旨の合意による時効の完成猶予について

 

改正前の民法で「時効の中断」と言っていたのを新民法では「時効の更新」(時効がリセットされること)、

改正前の民法で「時効の停止」と言っていたのを新民法では「時効の完成猶予」と言って、言葉が変わっています(わかりやすくなっています)。

債務整理の際の債権者あて受任通知(債務整理開始通知)には、次の文言を記載をしていますが、この時効中断事由は、時効更新事由に変える必要があります。

「本通知は、時効中断事由や時効の利益放棄としての債務承認をするものではありません。もし、消滅時効が成立している場合はそれを援用いたします。もし、過払い金が発生している場合はその返還請求をいたします」)

 

仮差押え、仮処分は、時効中断事由とされていましたが、新民法では、完成猶予になっています(新民法149条)。

 

民法では、この時効の完成猶予の一つとして、「(書面による)協議を行う旨の合意」(新民法151条)が新たに加わりました。

 

この規定の(典型的な)適用場面は、

もう少し(の期間)で消滅時効になるので「消滅時効を止める(猶予・更新)ためには裁判手続をする必要がある」のだけれども、現在、「(裁判で)話し合い中」とか、「裁判までしなくても話し合いで解決できる可能性がある」とかで、(とりあえず)話し合いの間、消滅時効が完成しないようにしておきたい、というケースになります。

 

(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
民法 151条
権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない
一 その合意があった時から一年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時
②前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない
催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。
④第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。
⑤前項の規定は、第一項第三号の通知について準用する。

 

(時効に関する経過措置)
③新法第百五十一条の規定は、施行日前に権利についての協議を行う旨の合意が書面でされた場合(その合意の内容を記録した電磁的記録(新法第百五十一条第四項に規定する電磁的記録をいう。附則第三十三条第二項において同じ。)によってされた場合を含む。)におけるその合意については、適用しない(附則10条)。

 

ポイント

この合意は、書面でする必要がある。

原則1年間、時効の完成猶予

(合意により、それより短い協議を行う期間を定めた場合は、その期間)

協議の続行拒絶の通知(書面)がされた場合、通知から6か月の猶予

 

このうち、いずれか早い時になっているので、例えば、合意をしてから、6か月経過後は、協議の続行拒絶の通知をする意味はなくなります(してもしなくても、猶予される期間は、原則の1年か、もしくは1年より短い当事者が定めた協議を行う期間があればその期間になる)。

例えば、合意をしてから、8か月後に(書面で)協議の続行拒絶の通知がされた場合は、猶予される期間は、それから6か月(合意をした時から14か月)ではなく、当事者が協議を行う期間を定めなかった場合は合意をした時から1年、もし、当事者が協議を行う期間を10か月と定めていた場合は、合意をした時から10か月になります。

例えば、合意をしてから、5か月後に(書面で)協議の続行拒絶の通知がされた場合は、猶予される期間は、それから6か月(経過)のトータル11か月になります。もし、当事者が協議を行う期間を10か月と定めていた場合は、協議の続行拒絶の通知は影響せず、合意をした時から10か月になります。

この辺はすこしややこしくて、司法書士試験には出題しやすいのではないかと思います。

実務では、猶予期間が迫ってきたら、2項の再度の合意か、裁判の準備するだろうし、協議の続行拒絶の通知がされた場合は、早期に裁判手続きを取ることになると思います。

2項は、再度の合意も可能という規定。ただし、本来の時効が完成すべき時から通じて五年を超えることはできない(再度の合意を繰り返し時効の完成猶予期間を延ばすことができるが、5年が上限になります)。

 

3項の規定はすこしわかりにくいですが・・・

催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。

 

(裁判外で)「とりあえず(取り急ぎ)」時効を止めたいという場合、この「(書面による)協議を行う旨の合意」の他に、「催告」(150条)という方法もあります。

これは、内容証明郵便かで、請求しておけば、1回だけ6か月、時効を止める(猶予する)ことができるというものです。

3項の規定は、「どちらかをして、それで時効完成を阻止(猶予)した後は、もう一方はできませんよ」という規定です。

催告をして時効を止めている間(猶予中)、この協議を行う旨の合意での完成猶予はできない。

逆に、協議を行う旨の合意での完成猶予中に、催告による時効の完成猶予はできません、という規定です。先にしたものが優先される。

ですから、とりあえず内容証明郵便かなにかで催告をして時効の完成を6か月猶予した後、その猶予期間中に「協議を行う旨の合意」をしても、それによる猶予期間の延長はない、ということになります。

これは注意が必要かと思います。話し合い(協議)をする予定であれば、時効を止めるために、取り急ぎ「催告」ではなく、「協議を行う旨の合意」も検討した方がよいということになります。

3項の規定

A 催告をして時効を止めている間(猶予中)、この協議を行う旨の合意での完成猶予はできない。

B 協議を行う旨の合意での完成猶予中に、催告による時効の完成猶予はできない。

催告をして、その後、話し合いをすることは多いので、Aの協議を行う旨の合意での完成猶予は、認めてもよさそうにも思いますが、(なぜか?)そうなっていません。

なお、この猶予されている間(猶予中)に他のものができない(しても効力を生じない)という、猶予されている間(猶予中)というのは、例えば、催告をした後、本来の時効期間満了時から催告後6カ月を経過した時までの間のこと(まさに猶予期間中)で、この間に協議を行う旨の合意をしても、この合意による時効の完成猶予の効力は生じないということです。ですから、催告後、本来の時効期間満了するまで(猶予中とはなっていない間)であれば、協議を行う旨の合意は可能です(ただし、本来の時効期間満了時が明確でないケースもあり、判断がむずかしいケースもあると思います)。

 

それから、

協議を行う旨の合意の中身で、

その協議する内容を具体的に入れてしまっているような場合

例えば、その権利の存在は認めたうえで、支払方法(分割払いなど)を協議する合意内容になっている場合は、それは時効の完成猶予ではなく、時効の更新である「承認」(152条)になるのではないかと思います。

また、その権利の存在は認めたうえで、その金額を協議するという合意内容になっている場合はどうか?

この規定の時効の完成猶予のつもりが、実は、時効の更新である「承認」になってしまっていることがあるかもしれませんので、この点も(一応)注意が必要かと思います。

「承認」になるのがよくないという訳ではありませんが、あくまで、この協議を行う旨の合意は(承認ではなく)時効の完成猶予のため、というのであれば、「権利の内容及び存否につき協議を行う」ということで、明確にしておいた方がよいと思いました(民法151条の合意で債務の承認ではない旨まで入れておけば完璧か)。

でも・・・、この規定が有効に働くのは、むしろ金額や支払方法などのところの協議をしているケースで、権利の存在自体を争っているような事案は、(話し合いでの解決はむずかしく)このような規定で時効の完成猶予をしているより、早々に裁判をした方がよいのではないか?とも、すこし思いました。

 

よくわからなくなってきたので、この辺でやめます・・・(つづく)