当事者の意思(合意、特約)により、その規定と異なる定めをすることができるもの
当事者の意思(合意、特約)により、その規定と異なる定めをすることができないもの。公の秩序に関する規律で、違反すると私法上無効となるものをいいます。
任意規定か、強行規定かは、法律に「別段の意思表示がないときは」「別段の意思を表示したときは」などとなっている場合は(明確に)任意規定と判りますが、そうでない場合は、法律の趣旨から判断する必要があります(どちらともいえない微妙なものもあります)。
民法で改正のあった債権法のところは任意規定が多いところと言われています。
ただし、「保証」のところの規定は強行規定が多くなっています。
例えば、
1、個人根保証契約(新民法465条の2)
一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(・・・)であって保証人が法人でないもの(・・・)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、・・・極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
極度額を定めない場合は効力を生じない。
2、保証意思宣明公正証書の作成
事業用資金を貸す場合(貸金等債務=金銭の貸渡し又は手形の割引をうけることによって負担する債務)の個人保証(貸金等債務が含まれる根保証契約を含む)については、原則として保証意思を明確にするため「公正証書の作成」が必要(新民法 465条の6)
これらは、保証人を保護するための規定(これをしないと効力を生じないと規定されています)なので、当事者間で不要とすることはできません。
また、次の保証人への情報提供義務3つ
1、「保証契約締結時」の、主たる債務者の「保証人への情報提供義務」(保証委託、個人保証、事業性のある債務)
事業性のある債務の場合、主たる債務者は、個人の保証人へ委託する際、財産や収支の状況などの情報を提供しなければならない(新民法 465条の10)。
これに違反した場合、保証契約を取消すことができる規定まであります。
「主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は保証契約を取り消すことができる。(新民法 465条の10第2項)」
2、「保証契約履行中」の、債権者の「保証人への情報提供義務」(保証委託を受けたすべての保証)
新民法 458条の2
保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるもの全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。
主債務者の履行状況の情報は、保証人にとっては一番の関心事でもありますので、この規定は、保証委託のある保証すべてに適用があります(保証人が「法人」の場合も含まれます)。保証委託のない保証が除かれているのは、主債務者の委託を受けていない、主債務者の知らないところで保証がなされている場合は、自分の情報が、義務として、そのような保証人に知らされるのは、どうか?ということで、除かれているのだろうと思います。
3、期限の利益を喪失した場合の債権者の「保証人への情報提供義務」(すべての個人保証)
新民法 458条の3
主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない。
②前項の期間内に同項の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない。
③前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない。
この規定は、法人を除く個人保証すべてに適用があります。保証委託がないものも含みます。
趣旨は、主たる債務者に滞納があった場合は、(損害金がどんどん膨らんでしまうので)早期に保証人にも連絡、請求しようね、というものです。保証人が法人の場合は適用なし、なのがよくわかりませんが、保証契約の際、同じような規定を特約などで決めることができるからか、と思います。
これらの規定も、保証人の保護のための規定なので、主たる債務者や債権者の義務を軽減する合意はむずかしい(効力を生じない)と思われます。
任意規定については、
例えば、
連帯保証人に対する履行の請求については、改正前は、その効力は主たる債務者にも及ぶ(絶対効)、とされていましたが、改正民法では、原則、及ばないとされています(相対効)。ですから、連帯保証人に訴訟等により請求し、保証債務につき時効の完成猶予・更新になっても、主たる債務については、時効の完成猶予・更新にはなりません。一生懸命、連帯保証人のみに請求(訴訟等)をしても、主たる債務者にしないと、主たる債務につき時効が完成してしまうと、連帯保証債務も主たる債務の時効完成により請求できなくなったりします。ただし、これは任意規定なので、お金の貸し借りなどの際に特約で「及ぶ」とすることは可能です。
一例 連帯保証契約書
第〇条 債権者の連帯保証人に対する履行の請求は、主たる債務者に対してもその効力を生じるものとする。
お金の貸し借りだけではなく、不動産の賃貸借契約などの場合も、同様。
一例 不動産の賃貸借契約書
第〇条 甲(賃貸人)の丙(連帯保証人)に対する履行の請求は、乙(賃借人)に対してもその効力を生じるものとする。
一例 不動産の賃貸借契約書(連帯保証人が複数いる場合)
第〇条 甲(賃貸人)の連帯保証人の一人に対する履行の請求は、乙(賃借人)及び他の連帯保証人に対してもその効力を生じるものとする。
新民法441条
第四百三十八条(更改)、第四百三十九条第一項(相殺)及び前条(混同)に規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。ただし、別段の意思を表示したときは、債権者及び他の連帯債務者の一人が当該他の連帯債務者に対する効力は、その意思に従う。