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改正民法(債権法)8

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改正民法(債権法)8

債権譲渡、契約不適合責任(売買)、約款について

ポイントのみ

1、債権譲渡

あの悪名高き?異議なき承諾の規定は廃止されました。

改正前の民法は、債務者が異議をとどめないで債権の譲渡の承諾(異議なき承諾)をしたときは(それだけで)、債務者は譲渡人(元の債権者)に対抗することができた事由(例えば、反対債権があって相殺できたなど)があっても、これをもって譲受人に対抗することができないと定めていました。しかし、これは債務者にとって酷すぎるなどの理由から、新民法では、この異議をとどめない承諾の制度を廃止しました。改正後は、債務者が有する抗弁の切断については、(ただ単に異議をとどめない承諾だけではダメで)抗弁を放棄する旨の債務者の明確な意思表示が必要となります。

貸金業者の貸金債権が譲渡された場合で、債務者が異議なき承諾をした場合、(譲渡時における)利息制限法所定の金利で再計算した結果(過払い含む)を債権の譲受人に主張できるかどうか、で問題となったことがありましたが(悪名高き?と言ったのは、この争いがあったからです。この争いでは最高裁の判決は悪意もしくは過失のある譲受人に主張・対抗できるとしましたが・・・)、このように、新民法では異議なき承諾の制度は廃止され、元の債権者(譲渡人)に主張できた抗弁を放棄するためには、その放棄する旨の明確な意思表示が必要となります。

 

譲渡禁止特約が付いた債権の譲渡は無効であったのが、「有効」(効力を妨げられない)と改正(新民法466条2項)

債権の譲渡は原則自由とされていますが(ただし、性質上許されないものや、年金受給権や生活保護受給権など法律で禁止されているものは除く)、当事者間で譲渡禁止特約を合意することもできます。この譲渡禁止(制限)特約の付いた債権の譲渡は、改正前の民法では無効となっていましたが、民法では有効とされています。

*給与債権の譲渡については、無効ではないが、労働基準法24条で直接払いの原則があるので、譲受人が支払いを受けることはできない。

<改正前の民法

譲渡禁止特約が付いた債権の譲渡は無効。例外的に、譲渡禁止特約について、それがあることを知らない善意(かつ重過失がない。重過失は悪意と同じと考えられる)の譲受人(第三者)に対しては特約の存在を主張できない(対抗できない)。

<新民法

譲渡禁止(制限)特約が付されていても、これによって債権譲渡の効力は妨げられず、有効

例外的に、債権の譲受人が譲渡禁止(制限)特約について悪意又は重過失である場合には、債務者は、譲受人に対する債務の履行を拒むことができる(この債権の譲受人の悪意又は重過失については、債務者に立証責任があります)。 

中小企業等が資金調達をするための債権譲渡が少しやり易くなりました。

なお、預金口座または貯金口座に係る債権(預貯金債権)については、譲渡禁止(特約)されているのが通常なので、その特約につき悪意又は重過失の譲受人との関係では、債権譲渡は無効であるとされています(新民法466条の5)。

 

<譲渡禁止(制限)特約が付いた債権が譲渡された場合の債務者の対応>

(1)譲受人が譲渡禁止(制限)特約について善意かつ特約を知らないことについて重過失がない場合

債権譲渡は有効であり、譲受人が債務者に対する債権譲渡の対抗要件(譲渡人の債務者への通知、又は債務者の承諾)を具備していれば、債務者は譲受人に履行をしなければならない。

(2)譲受人が譲渡禁止(制限)特約について悪意又は特約を知らないことについて重過失がある場合

この場合も債権譲渡は有効ですが、債務者は次の対応を取ることができます。

・譲受人に債務の履行を行う(譲受人の悪意又は重過失を主張しない)。

・(譲受人の悪意又は重過失を主張して)譲受人に対する債務の履行を拒絶、元の債権者(譲渡人)に対する弁済等の履行をして、債権が消滅すれば、その旨を譲受人に主張する(新民法466条3項)。
なお、(このように債務者に履行の拒絶をされた場合)譲受人としては、債務者に対して、相当期間を定めて元の債権者(譲渡人)へ弁済等の履行をするよう催告(「おれに弁済できないのであれば、元の債権者へ弁済しろ」等)をし、その期間内に弁済等の履行がされなければ、譲受人が自分への履行を請求することができます(新民法466条4項)。

・(金銭の給付を目的とする債権の譲渡の場合)供託をする(新民法466条の2第1項)。

 

改正前の民法では、債権譲渡の際に債務者が譲渡人に対する反対債権を有していた場合の相殺権の行使の可否について明確な規定が置かれておらず、ルールが不明確でした。新民法は、債権譲渡の対抗要件が具備される前に債務者が取得した債権など一定の債権について、これを自働債権として相殺できる旨が明文化されました。債権譲渡があった場合に債務者が譲渡人に対して次の反対債権を有している場合には、債務者は当該債権と譲渡債権の相殺を譲受人に対抗できることとしました(新民法469条)。

(1)債権譲渡にかかる対抗要件具備時より前に取得した債権(同条1項)

債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であっても、その債権が次のものであるとき(ただし、権利行使要件具備時より後に他人の債権を取得したものであるときは、この限りでない)

(2)債権譲渡にかかる対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権(同条2項1号)

(3)譲渡債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権(同条2項2号)

 

例えば、

貸金の過払い金をなかなか返さない貸金業者に対して次のようなことをした。

貸金業者の甲に対して過払い債権を有しているA(債権者A、債務者甲)

貸金業者の甲に対して貸金債務を負っているB(債権者甲、債務者B)

①AがBへ、この過払い債権を譲渡(Bは他人Aの債権を取得。Aは甲へ譲渡の通知)

ただし、②甲は乙へ、Bに対する貸金債権を譲渡(甲はBへ譲渡の通知)

Bは甲に対する貸金債務(乙へ譲渡されている)と、Aから譲り受けた過払い金を相殺できるか(相殺をもって乙に対抗できるか)?

債権譲渡にかかる対抗要件具備時②より前に取得した債権①であれば可能(新民法469条1項)

過払い債権(他人の債権)の取得が、②の対抗要件具備時よりも後の場合はできない(新民法469条2項)。

 

債権譲渡に関する改正の内容は、新民法の施行日(令和2年4月1日)以降に債権譲渡の原因となる法律行為がされた場合に適用されます(民法附則22条)。

 

2、契約不適合責任(売買の規定)

民法562条

引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、・・・

法定責任説(瑕疵担保責任)から契約責任説(契約不適合責任)に

改正前の民法における法定責任説のもとでは、買主がとり得る手段は、解除(契約した目的を達成できない場合)と損害賠償請求だけでしたが、新民法では、契約責任と整理された結果、追完請求(新民法562条)代金減額請求(新民法563条)もできるようになりました(ただし、買主の責めに帰すべき事由によるものであるときはできない)。

このように買主の救済方法として、追完請求、代金減額請求、解除、損害賠償があります。

 

追完請求

追完の方法は、買主が選択できることとされていますが、買主に不相当な負担を課するものでないときは、売主は、買主が請求した方法と異なる方法で追完することが可能です。

代金減額請求

改正前の民法では、数量指示売買を除き、代金減額請求は認められていませんでした。

代金減額請求は、履行の追完を催告し、催告期間内に履行の追完がない場合にすることができます。ただし、履行の追完が不能であるなどの場合には、催告は不要です(新民法563条2項)。

 

なお、契約不適合が買主の責めに帰すべき事由による場合には、追完請求、代金減額請求はできないこととされています。売主の方の帰責事由は不要(売主に帰責事由がなくても買主は追完請求、代金減額請求ができる。売主は、契約不適合が売主の責めに帰すことができない事由によるものであるとの抗弁を出すことはできない)。

 

解除、損害賠償 

民法では、契約責任と整理された結果、解除及び損害賠償については、債務不履行の一般規定に服することとなりました(新民法564条)。

<解除>

したがって、解除を行うためには、原則として履行の追完の催告、相当な期間の経過が必要となります(新民法541条。ただし、催告によらない解除542条)。

そして、解除できる場面ですが、改正前の民法瑕疵担保責任では(改正前の民法570条、566条)、「契約をした目的を達することができない」という要件がありましたが、新民法では、債務不履行の一般規定に服する結果、催告解除(新民法541条)においては、契約の目的を達成することができる場合でも、不履行が軽微であるときを除いて解除できる余地が生じることとなりました(なお、軽微のときは解除できない)。したがって、民法改正によって、「契約の目的達成は可能ではあるが、軽微でない」場合も解除できることになり、解除できる場面が広がりました。

ただし、買主(債権者)に帰責事由がある場合は、買主の解除は制限されます(新民法543条)。

解除の場合、(追完請求、代金減額請求と同様)新民法では、債務者(売主)の帰責事由は不要(売主に帰責事由がある場合はもちろん、帰責事由がなくても、買主は解除できる)となっています(契約の拘束力からの解放)。

<損害賠償>

民法では、損害賠償についても債務不履行の一般規定に服します。そのため、売主の帰責事由が不要(無過失責任)であった改正前の民法と異なり、損害賠償には売主(債務者)の帰責事由が必要となりました(新民法415条1項但し書)。

また、改正前民法における法定責任説のもと、信頼利益(瑕疵を知らなかったことによって買主が被った損害)までとされていた損害賠償の範囲は、履行利益(本来の履行がなされていれば得られていたであろう利益を得られなかったことに係る損害)まで含まれることになりました(新民法416条)。

 

改正前の民法では、瑕疵を理由とする損害賠償請求等の権利行使は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならないとされていました(改正前民法570条、566条3項)。これに対し、新民法では、「種類」または「品質」に関して契約の内容に適合しない「目的物」を買主に引き渡した場合の権利行使については、買主が契約不適合を「知った時」から1年以内に「通知」をすれば足りるとし、また、「数量」や、移転した「権利」に関する契約不適合を理由とする権利行使については期間制限が設けられていません(新民法566条)。ただし、新民法166条1項によって消滅時効にかかる可能性はあります。

 

担保責任の期間制限(新民法566条)の適用ありなし

目的物の契約不適合

種類・品質に関して契約の内容に適合しないものであるとき→適用あり

数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき→適用なし

権利の契約不適合→適用なし

 

ただし、売主が契約不適合につき悪意又は重過失であった場合には、上記1年の期間制限にはかかりません(新民法566条但し書)。

なお、改正後の宅地建物取引業法40条では、「宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、その目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合におけるその不適合を担保すべき責任に関し、民法第566条に規定する期間についてその目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない」と改正され、2項においてこれに違反する特約は、無効とされています。引き渡しの日から2年以上とする特約はOK。

 

契約不適合責任の規定は、改正前の民法における瑕疵担保責任の規定同様、売買以外の他の有償契約にも、その性質がこれを許さないときを除き、準用されます(民法559条)。

商人間の売買においては、商法526条が適用されます(発見したときは直ちに、直ちに発見できない瑕疵の場合、6ケ月以内)。

これらの民法の規定は、任意規定であるため(強行法規に反しないかぎり)、当事者の合意により変更(アレンジ)は可能です。

 

3、定型約款

「定型取引」

ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。

「定型約款」

定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。例 鉄道の運送約款、普通預金規定、保険約款、Web上の利用契約など

定型取引を行うことの合意(これを「定型取引合意」をいいます。)があり、以下のいずれかに該当するときは、定型約款中の個別の条項についても合意をしたものとみなされることになります。

(1)定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき

(2)定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき

もっとも、上記の要件を満たす場合でも、個別の条項の中で、「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項」であって、その内容が取引上の社会通念などに照らし、「信義に従い誠実に行うべき義務」(民法1条2項)に反し、相手方(顧客)の利益を一方的に害する場合には、その条項については合意をしなかったものとみなされます(新民法548条の2第2項)。

消費者契約法第10条との関係

事業者と消費者の間での契約については、新民法548条の2第2項の規定と消費者契約法第10条の両方が適用の対象となり得ます。

消費者契約法第10条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」

(同じような感じなので)消費者の場合は、どちらを主張してもかまわないと思われます。

 

契約内容の変更をする場合には、相手方の同意を得る必要がありますが、定型約款の規定が適用される場面では、取引は不特定多数の顧客(相手方)と行われていますので、そのような場合に、個々の顧客(相手方)全員から定型約款変更の承諾を得るのは困難です。

そこで、
(1)定型約款の変更が、相手方(顧客)の一般の利益に適合するとき
又は
(2)定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき

には、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に顧客と合意をすることなく契約の内容を変更することができるものとされました(新民法548条の4第1項)。

ただし、新民法548条の4第1項に基づいて定型約款の内容の変更を行える場合でも、顧客保護のため、定型約款準備者は、その効力発生時期を定め、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期を、インターネットの利用その他の適切な方法により周知する必要があります(新民法548条の4第2項)。

そして、(2)の場合(変更の合理性があるが、顧客一般の利益に適合するとは必ずしもいえないものである場合)の変更では、特に顧客保護の必要性が高いと考えられることから、変更の効力発生時期までに周知をしなかった場合には、定型約款の変更の効力は生じないこととされました(新民法548条の4第3項)。

以上

 

危険負担

民法567条

目的物の引渡し前、売主買主双方の帰責事由によらない目的物引渡債務の履行不能

改正前民法 特定物につき買主の代金支払い債務は消滅しない(負担は買主に。債権者主義)。

民法 買主は代金支払い債務の履行を拒絶することができる(負担は売主に。債務者主義)。

など

*ただし、任意規定であるため、当事者でアレンジ(別段の合意)することは可能