司法書士とくの日記(ブログ)

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改正民法(債権法)5

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西宮市のキャラクターみやたん(水色の妖精)

 

<不動産登記に関係するもの>

病院に関係するもの

大家さんに関係するもの

と続けましたが、今回は、不動産登記に関係するもの

 

 (錯誤)
改正民法 95条
 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
1 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
2 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
②前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
③錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
1 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
2 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
④第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。 

改正前は、錯誤の効果は「無効」となっていましたが、これを新民法では「取消」にしました。よって、新民法95条1項に基づき意思表示が取り消された場合の抹消登記を申請するときは、その登記原因は(無効とか錯誤とかではなく)「年月日取消」となります(ただし、施行日以後にされた意思表示に限られる)。

相続放棄をする必要はありません(でした) - 司法書士とくの日記(ブログ)

 

根抵当権

民法 398条の2

抵当権は、設定行為で定めるところにより、一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度において担保するためにも設定することができる。(ここは変更なし)

②省略 (ここも変更なし)

③特定の原因に基づいて債務者との間に継続して生ずる債権、手形上若しくは小切手上の請求権又は電子記録債権電子記録債権法(平成十九年法律第百二号)第二条第一項に規定する電子記録債権をいう。次条第二項において同じ。)は、前項の規定にかかわらず、根抵当権の担保すべき債権とすることができる。

 

これまでも、根抵当権の債権の範囲に「電子記録債権」というものは認められていましたが、これが明文化されました(これまでの取り扱いと同じ)。金融機関からの根抵当権設定登記の依頼で、いつからか契約書に「電子記録債権」というものが入るケースが増え、これが実際どういうものか?よくわからないまま登記申請をしていました(今でもよくわかっていませんが・・・)。

 

債務の引受け

債務引受については、これまで民法には規定がありませんでした(実務上は、認められていましたが)。新民法では、新たに「債務の引受け」という節が設けられて、債務引受の規定が新設されています。

(併存的債務引受の要件及び効果)

民法 470条
 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。
②併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。
③併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。
④前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。

 

(併存的債務引受における引受人の抗弁等)

民法 471条
引受人は、併存的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。
②債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

 

(免責的債務引受の要件及び効果)

民法 472条
免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。
②免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。
③免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。

 

(免責的債務引受における引受人の抗弁等)
民法 472条の2
引受人は、免責的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。
②債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、免責的債務引受がなければこれらの権利の行使によって債務者がその債務を免れることができた限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

 

(免責的債務引受における引受人の求償権)

民法 472条の3
免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しない。

 

(免責的債務引受による担保の移転)

民法 472条の4
債権者は、第四百七十二条第一項の規定により債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を引受人が負担する債務に移すことができる。ただし、引受人以外の者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。
②前項の規定による担保権の移転は、あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示によってしなければならない。
③前二項の規定は、第四百七十二条第一項の規定により債務者が免れる債務の保証をした者があるときについて準用する。
④前項の場合において、同項において準用する第一項の承諾は、書面でしなければ、その効力を生じない。

⑤前項の承諾がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その承諾は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。

 

(債務の引受けに関する経過措置)
附則第23条
新法第四百七十条から第四百七十二条の四までの規定は、施行日前に締結された債務の引受けに関する契約については、適用しない。

 

債務の担保権を、不動産に設定された抵当権で考えてみたいと思います。

抵当権の登記で、この債務引受による、抵当権の変更登記(債務者の変更)をする場合があります。

併存的債務引受の場合、免責的債務引受のような担保権の移転の規定(新民法 472条の4)がありません。併存的債務引受は 連帯債務者を追加する内容なので、被担保債権(抵当権の内容)の変更は、その引受から当然の効果として生じるものではなく、抵当権設定者(不動産の所有者)と債権者(抵当権者)との合意によって行われるものになります。抵当権変更登記(併存的債務引受による債務者変更の登記)の登記原因証明情報は、抵当権設定者(不動産の所有者)と債権者(抵当権者)との合意があったことを証するものになります。

この併存的債務引受は、(前は)「重畳的債務引受」とも言いましたが、登記原因が「重畳的債務引受」とされている場合でも、登記申請は受付られ、これを登記原因としても差し支えないとされています。

登記の目的 抵当権変更、原因 年月日併存的債務引受(重畳的債務引受でも可)、追加する事項 連帯債務者 住所、氏名(引受人)、権利者 住所、氏名(抵当権者)、義務者 住所、氏名(設定者)

 

免責的債務引受は、引受人が(同一)債務を負担し、旧債務者は負担を免れるという、債務の消滅、(同一)債務の発生という面があるため、その債務を担保する抵当権(担保権)を引受人(の債務)へ移転するというかたちで規定しています(新民法 472条の4)。

抵当権を引受人が負担する債務に移す場合の、抵当権変更登記(免責的債務引受による債務者変更の登記)の登記原因証明情報は、免責的債務引受及びこれに伴う抵当権の移転の要件を満たすことを証するものになります。

1例

債権者(抵当権者)A、債務者B、債務の引受人C、不動産の所有者(設定者)甲

免責的債務引受

・A(債権者)とC(引受人)とで債務引受の契約をする(472条②)。AからB(旧債務者)への通知(要、効力要件)*(旧)債務者への通知で足りる

もしくは

・BとCとで債務引受の契約をする(472条③)。債権者AのCに対する承諾(要)

抵当権(担保権)を移転する場合

Aは抵当権を移すことができる(472条の4)。

・甲(設定者)の承諾(甲=Cでない場合)要(この承諾がない場合は無担保となってしまう)*甲=Cの場合は不要

・Aがあらかじめ又は同時にCに対して意思表示(472条の4②)

したがって、債権者のAが抵当権を移したい(同じように担保にしたい)場合は、Cに対して移す旨を通知し(意思表示)、C=甲(設定者・不動産の所有者)でない場合は、甲の承諾を得て、することになります(免責的債務引受が有効になされていることが前提だが)。

 

登記原因証明情報 1例

登記申請情報の要項(略)

登記原因となる事実・法律行為

(1)年月日、債権者Aは、引受人Cとの間で、BのAに対する本件抵当権の被担保債務を免責的に引き受ける旨を約した。

(2)同日、Aは債務者Bに対して(1)の契約をした旨を通知した。

(3)Aは上記(1)の約定の際、引受人Cに対して本件抵当権をCが引き受けた債務に移す旨の意思表示をした。

(4)設定者の甲は、同日、本件抵当権をCが引き受けた債務に移すことにつき、承諾した。

(5)よって、同日、上記(1)の免責的債務引受の効力が生じ、本件抵当権の債務者BはCに変更された。

上記の登記原因のとおり相違ありません。

登記義務者である設定者 甲の住所、氏名 印

(なお、(4)の記載がなくても、設定者は、登記義務者(登記申請人・当事者)なので、当然、承諾しているともいえる)

 

登記の目的 抵当権変更、原因 年月日免責的債務引受、変更後の事項 債務者 住所、氏名(引受人C)、権利者 住所、氏名(抵当権者A)、義務者 住所、氏名(設定者 甲)

債務者の住所変更登記 - 司法書士とくの日記(ブログ)

 

買戻しの特約

(買戻しの特約)
民法 579条
不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額。第五百八十三条第一項において同じ。)及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。

 

売買代金に代えて、「合意金額」にすることが可能になりました。

登記記載 買戻特約、原因 年月日特約、合意金額 金〇〇円、契約費用 金〇〇円、期間 令和〇年〇月〇日から〇年間、買戻権者 住所、氏名 

 

不動産の賃貸人の地位の移転

(不動産賃貸借の対抗力)

民法 605条

不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる。

 

(不動産の賃貸人たる地位の移転)
民法 605条の2
前条、借地借家法(平成三年法律第九十号)第十条又は第三十一条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位は、その譲受人に移転する。
②前項の規定にかかわらず、不動産の譲渡人及び譲受人が、賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転しない。この場合において、譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は、譲受人又はその承継人に移転する。
③第一項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は、賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ、賃借人に対抗することができない。
④第一項又は第二項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第六百八条の規定による費用の償還に係る債務及び第六百二十二条の二第一項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。

 

(合意による不動産の賃貸人たる地位の移転)

民法 605条の3

不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、その賃貸人たる地位は、賃借人の承諾を要しないで、譲渡人と譲受人との合意により、譲受人に移転させることができる。この場合においては、前条第三項及び第四項の規定を準用する。

 

(贈与等に関する経過措置)
 施行日前に贈与、売買、消費貸借(旧法第五百八十九条に規定する消費貸借の予約を含む。)、使用貸借、賃貸借、雇用、請負、委任、寄託又は組合の各契約が締結された場合におけるこれらの契約及びこれらの契約に付随する買戻しその他の特約については、なお従前の例による(附則34条)。

 

賃貸人の地位が留保された場合(新民法 605条の2②)

1例 留保された賃借権の登記がされている場合において、譲渡人のために譲受人が設定した賃借権の設定登記(登記記載例)

甲区 所有者 A→B(AからBへ移転)

乙区 1番 賃借権設定 原因、賃料、支払時期、存続期間、賃借権者

2番 賃借権設定 原因 年月日1番賃借権の賃貸人たる地位の留保のため設定、賃料、支払時期、存続期間、賃借権者 A

 

1例 留保された賃借権の登記がされていない場合において、譲渡人のために譲受人が設定した賃借権の設定登記(登記記載例)

甲区 所有者 A→B(AからBへ移転)

乙区 1番 賃借権設定 原因、賃料、支払時期、存続期間、賃借権者 A

 

サブリースのかたち・・・

 

つづく

改正民法(債権法)6 - 司法書士とくの日記(ブログ)