相続人への遺贈による所有権移転登記(受遺者の単独申請)
令和5年4月1日から、
相続人への遺贈による所有権移転登記については、相続人である受遺者(登記権利者)の単独申請が可能になっています(不動産登記法第63条第3項)。
これは、令和5年4月1日より前に生じた相続についても適用があります。
それから、遺言者の最後の住所と登記簿(登記記録)上の住所が異なる場合は、遺贈による移転登記では住所変更登記(名変登記)が必要でしたが、上記の相続人である受遺者(登記権利者)の単独申請の場合は、その変更が判る証明書類(除票や戸籍の附票)を添付すれば不要となっています。
この、遺贈で相続人である受遺者(登記権利者)の単独申請するケースですが、実は、実務ではあまりありません。それは、遺言では、(通常)相続人に対しては「相続させる」となっており、相続人に対して「遺贈する」とはなっていないからです。自筆証書遺言や、遺言する時点では法定相続人ではなかったが、死亡時には法定相続人になっていたケースなどが考えらえます(兄弟姉妹相続で遺言で甥姪に遺贈するとしており遺言時には兄弟姉妹は存命だったが死亡時には兄弟姉妹が先に亡くなっており甥姪が法定相続人になったケースなど。それでも公正証書遺言であれば「遺贈もしくは相続させる」としているケースが多いです)。
多くの遺言書では、相続人に対しては「相続させる」として特定財産承継遺言になっているということです。
特定財産承継遺言=遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(いわゆる「相続させる」旨の遺言)
「甲不動産を子のAに相続させる」というのが典型例ですが「すべての財産を妻に相続させる」という遺言も、すべての財産と特定されており、妻という特定の相続人に対して相続させるとなっているので、これも特定財産承継遺言になるといわれています。「遺産分割の方法の指定として」とありますが、あらためて遺産分割は不要で、相続発生により直ちに(遺言の内容に基づいた)権利取得(権利変動)があるとされています。この場合は、遺贈ではありませんので登記については(もともと)相続人の単独申請ですることになっています。
遺贈の、相続人である受遺者(登記権利者)による単独申請は、実質、相続と変わらないところから単独申請が認められたと思います。であれば、登記権利者の受遺者である相続人に代わって遺言執行者(義務者の立場になりますが)でも(単独で)登記申請できるのかどうかが気になります。
遺言執行者は、特定財産承継遺言については対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる(民法第1014条第2項)、とされています。(相続人への遺贈の単独申請は通常、特定財産承継遺言以外になりますが)遺言執行者ができるのは特定財産承継遺言(による登記)の場合となっており、遺贈の場合は(共同申請でいえば)遺言執行者は義務者の立場なので、この辺はどうなのか?また、仮にできるとしても、令和1年7月以降に作成された遺言に適用となるのか?(この辺はよくわかりません)。登記申請は遺贈の履行・執行に準じる(もしくはそのもの)と考えれば、当然できるとも考えられます。
相続人以外の人への遺贈の登記は、従来と変わらず共同申請となります(相続人全員と受遺者、もしくは遺言執行者がいる場合は遺言執行者と受遺者の共同申請)。受遺者=遺言執行者の場合は、(共同申請のかたちは変わりませんが)遺言執行者が登記権利者兼登記義務者として申請することになります。遺言執行者がいる場合で遺言執行者でない権利者である受遺者の代わりに遺言執行者がその地位で申請人になれるのかどうかは、上記の単独申請の場合と同様よくわかりません。登記申請は遺贈の履行・執行に準じる(もしくはそのもの)と考えれば、当然できるとも考えられます。
この共同申請の場合は、遺言者の最後の住所と登記簿(登記記録)上の住所が異なる場合は、(変わらず)住所変更登記が必要と思われますが、死者の住所変更登記をする実益はあまりないと思われ、単独申請の場合と同様、不要になっていくかもしれません。
この辺はどうなのか(遺言執行者による相続登記申請) - 司法書士とくの日記(ブログ)
渾身の(力を込めた)遺言書 - 司法書士とくの日記(ブログ)
(法務省 登記手続ハンドブック)
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001388918.pdf