司法書士とくの日記(ブログ)

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渾身の(力を込めた)遺言書

(すこし事実は変えています)


自筆証書遺言がある。
ふるえる文字で、
広告の裏に、次のように記載がある。


「遺言書 鈴木太郎 印
平成28年8月3日
しさんはすべて妻の美佐子にゆづる
葬儀不要」


ぐちゃぐちゃと黒塗りで訂正した箇所がある。


この遺言書を作成してから、1年後に亡くなる。
子はなく、相続人は、妻と兄弟姉妹。
主な遺産としては、自宅(土地、建物)のみ。


さて、この遺言書に基づき自宅不動産につき、
妻へ相続を原因として所有権移転登記ができるでしょうか?
なお、他の相続人の兄弟姉妹は関係が疎遠になっており、
協力を求めることは困難な状況。


法務局へ次のような照会をかけたところ、
そのとおりでOKになりました。


照会事項
件名 自筆証書遺言による相続登記の可否


内容
別紙の自筆証書遺言(検認済み)があります。
氏名、押印、日付があり、
自筆証書遺言としての最低限の要件は満たしています。
(黒塗りの)訂正につき問題があるかもしれませが、
読めるところの遺言の文言ははっきりしています。
「しさんはすべて妻の美佐子にゆづる」という内容になっています。
遺言者の氏名の記載はありますが、
その他、住所や生年月日等の記載はありません。
遺産の不動産は、別紙登記情報の不動産になります。


この遺言書(及び遺言者及び相続人の戸籍謄本、
遺言者の除票、相続人の住民票)を添付して、
当該不動産につき、妻である鈴木美佐子へ相続を原因として
所有権移転登記ができるかどうか。


問題点
1、自筆証書遺言の有効性 
2、遺言者と不動産の登記名義人との同一性
3、「ゆづる」という表現で、相続を原因として登記できるか


照会者意見
1、について
有効か無効かは最終的には裁判で決着するもので、
登記においては、形式的な範囲で有効として
取り扱うことになるものと考えます。


2、について
当該不動産の所有権の登記済証を添付すれば
同一性は認められると考えます。


3、について
受遺者は相続人であり遺贈とする特段の事情はないので、
「相続」を原因として登記が可能と考えます。


今回は登記済証(権利証書)があったのでよかった。
もし、なければ、固定資産税納税通知書と妻の上申書
(遺言者と登記名義人が同一である旨。印鑑証明書付)
でいけるかどうか。
被相続人と登記名義人との同一性と同じような問題が生じます。
http://d.hatena.ne.jp/tokucyan-siho/20170515


なお、3が遺贈となった場合は、
家庭裁判所で遺言執行者を選任してもらうか、
他の相続人である兄弟姉妹の協力を得て、
移転登記をすることになります。