司法書士とくの日記(ブログ)

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この辺はどうなのか(遺言執行者による相続登記申請)

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令和1年7月以降に作成された遺言書により、

不動産の相続登記をしました。

特定の不動産を相続人の2名に相続させる旨の遺言でした。

遺言執行者として、行政書士の先生が指定されていました。

 

(その相続人の一人は海外に出張中ということもあり)

相続人ではなく、遺言執行者から委任状をもらい申請

これで問題なく登記は完了し、

登記識別情報は各相続人のものが発行されました。

申請人は「遺言執行者」で大丈夫でした。

 

民法の相続法改正前(令和1年7月1日施行の前)は、

相続人へ相続させる遺言での相続登記は、

その相続人本人が申請人となり、遺言執行者からの申請は認められていませんでした(当然に承継されるので、執行の余地がないというのが理由です)

これが遺言執行者でもできるようになりました。

 

特定財産承継遺言=遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(いわゆる相続させる旨の遺言)があったときは、遺言執行者は対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる民法1014条2項)。

 

しかし、これについては経過措置があり、令和1年7月以降に作成された遺言について適用され、令和1年7月1日より前に作成された遺言には適用がありません

ですから、おそらく、(遺言の中で、遺言執行者は不動産の登記名義変更の権限ありとまで書いてあったとしても)令和1年7月1日より前に作成されている遺言の場合は、令和1年7月1日以降の死亡により遺言の効力が生じても、遺言執行者からの相続登記の申請は認められないものと思われます。

 

しかし・・・

 

遺言による相続登記を早期にする必要性が高まった、

対抗要件民法の相続法改正899条の2については、

令和1年7月1日よりも前に遺言が作成されていても、令和1年7月1日以降の死亡(遺言の効力発生)であれば適用されます。

 

相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できない(899条の2)。

 

この辺の関係はどうなのでしょうか?

 

対抗要件の問題で、登記を早期にする必要性が高まったのと、遺言執行者が相続登記できるのか、できないのか

について、

一方は、施行前の遺言にも適用あり、一方は、施行前の遺言には適用なし

になっている。

施行前の遺言でも早期に相続登記をする必要性はあるが、遺言執行者ではできないということになる。 相続人がすればよいということだが・・・

 

具体例(1例)

遺言者A

遺言

「不動産を長男Bに相続させる。」

(その他、省略)

遺言執行者 司法書士〇〇〇〇

令和1年6月に作成(令和1年7月1日よりも前)

 

遺言者Aが令和2年8月死亡

 

相続人は、長男B、二男C

 

二男Cには借金があり、Cの債権者である甲(債務名義あり)が

(長男Bが遺言に基づく相続登記をしないうちに)

遺言で長男Bが相続するとなっている遺産の不動産に対して、法定相続のB2分の1、C2分の1の相続登記を経て、

C持分を差押えた。

これは(改正後は)対抗要件の問題になるので、長男Bは遺言で相続することになっている分について、登記をしていなければ、甲に対抗できない(民法899条の2)。

だから甲のC持分の差押えをくつがえすことはできない。

ということになる。

二男C自身が、法定相続分のB2分の1、C2分の1の相続登記を経て、自分のC持分を誰かに売却してしまった場合も同様である(持分だけを買い取る者がいるかどうかは別にして)。

こうなると、遺言の内容を実現することはできなくなってしまう。

これを防ぐためには、長男Bは遺言による相続登記を早期にする必要がある(早い者勝ち)。

このように、登記という対抗要件を早期に備える必要性があっても、遺言執行者には相続登記の申請権限はない。

遺言執行者の司法書士は、遺言執行者の立場からは相続登記の申請人にはなれない。

するとしたら、司法書士は、長男Bから登記申請の委任状をもらってすることになる。

以上

 

これ(令和1年7月1日より前に作成された遺言書の遺言執行者には相続登記をする権限がない)については、あまり合理性があるようには思えません。特に遺言に「遺言執行者は登記手続きができる(権限あり)」と記載がある場合はなおさらです。申請権限がないということは、義務もないということであろうか?(改正後は)ぼやぼやしていたら、遺言内容が実現できなくなってしまうリスクがあるのに・・・

 

 

過去ブログ

民法改正(相続法改正)2 - 司法書士とくの日記(ブログ)

<遺言執行者の権限>

(1)遺言執行者は、遺言の内容を相続人に通知しなければならない(1007条2項)。

改正前は、相続人への財産目録の交付規定(1011条)はあったが、遺言内容の通知規定はなかった。

これは、施行前に開始した相続でも、施行日後に遺言執行者になるものにも適用される。

(2)特定財産承継遺言=遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(いわゆる「相続させる」旨の遺言)

遺言執行者は対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる(1014条)。

改正前は、不動産を相続人に相続させる旨の遺言の場合、登記申請できるのは相続人で遺言執行者は登記申請できないとされていたが、この規定により、遺言執行者もできるようになると思われる。

ただし、施行前にされた特定の財産に関する遺言に係る遺言執行者によるその執行については適用しない(施行日以降にされている遺言に適用)。

 

対抗要件

相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できない(899条の2)。判例理論の一部変更。

改正前は、遺言による相続分の指定や、相続させる旨の遺言(遺産分割方法の指定)の場合、(判例により)登記をしていなくても第三者に対抗できるとされていたが、取引の安全をはかるため変更された。

上記の遺言執行者が登記できると合わせて、不動産の場合、早期に遺言の内容を登記する必要性が高まった。

この899条の2の規定は、令和1年7月1日よりも前に作成された遺言であっても、令和1年7月1日以降の死亡(遺言の効力発生)であれば適用される。

民法1013条も参照(改正により2項、3項追加)