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判決等による登記(共有物分割)

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裁判の「調停調書」や「和解調書」で、不動産の登記手続きをすることがあります。

この調停調書や和解調書の内容で、

登記義務者登記申請意思が明確になっている場合は、

登記権利者の単独申請が認められています。

 

例えば、裁判上、贈与の合意(和解)をした上、

「被告は、原告に対して、その所有する別紙物件目録記載の不動産につき、本和解日付け贈与を原因とする所有権移転登記手続きをする。」

という具合に、和解調書で、

登記原因

当事者

不動産

が明確になっており、

その上、「誰それから誰それへ、所有権移転登記手続きをする」という登記手続条項が入っている場合は、この和解調書(正本)を登記原因証明情報として、添付し、登記権利者(原告)のみで問題なく登記手続をすることができます。

 

しかし、この調停調書や和解調書の内容が、不明瞭で、登記申請に使えない(単独申請ができない)場合があります。

登記原因や当事者が不明

「登記手続きをする」ではなく、「登記手続きについて協力する」「登記に必要な書類を提供する」などとなっている場合は登記に使えません。

(ただし、登記原因が不明でも、〇年〇月〇日判決、〇年〇月〇日和解や、年月日不詳売買、年月日不詳贈与などで登記された例はあります)

 

次の事例は、法務局に事前照会しましたが、消極に解するということでダメの回答が出されています。

 

調停調書の調停条項

甲土地(AB共有)

乙土地(AB共有)

原告A、被告B

1 甲土地を原告の、乙土地を被告の各単独所有とし、所有権移転登記手続を行うことに合意する。

2 原告は被告に対し、第1項の共有物分割に伴う価格賠償として、〇〇万円の支払義務があることを認める。

・・・

当方の照会

照会事項

件名 調停調書による当事者一方からの単独の登記申請の可否

別紙「調停調書」を添付して、判決等による登記として、権利者もしくは義務者の一方からの申請(権利者からの申請の場合、義務者の登記済証・登記識別情報、印鑑証明書の添付なし)で登記が可能かどうか。

別紙「調停調書」は、登記申請の意思を表しているといえるかどうか、また、登記原因証明情報としての適格性があるかどうか。

仮に、判決等による登記として当事者一方から登記申請できるとして、共有物分割登記で各不動産について持分全部移転登記をするが、義務者からの単独申請も可能か(*この問は、事情により原告のみで両方の土地の登記をしたい要望があるため)。

疑問点

1 調停条項に「所有権移転登記手続を行うことに合意する」とあり、明確に「登記手続きをする」となっておらず、また、「各単独所有とし」とあり、具体的な「持分全部移転登記」となっておらず、登記の意思を表したものと言えるかどうか。

2 登記原因は共有物分割になりますが、調停条項の1に記載がなく、2の「共有物分割に伴う価格賠償として」に記載がある。

当方の考え

可能であり、登記原因証明情報としての適格性もある。

理由

原告と被告は「所有権移転登記手続を行うことに合意する」とあり、「行う」と「する」はほぼ同義語であり、それを合意するということは、合意の中に、登記申請をするという意思表示も含まれていると考えられ、判決等による登記として当事者一方からの単独申請ができると考えます。

「単独所有とし」ということは、それぞれの不動産につき持分全部移転登記をするという内容であり、所有権移転登記手続はそれになる。

調停条項2に共有物分割という文言があるので、年月日(調停日)共有物分割としての登記原因証明情報となりうる。

判決等による登記が可能とした場合、義務者だけでなく、権利者の登記申請の意思も表しているので、義務者からの単独申請も可能。

 

法務局の回答(電話による) 書面での回答は避けられました。

この調停調書では、具体的に、誰から誰への移転かが、明確に書かれておらず具体的な登記の申請意思が表れているとは判断できない。

よって、この調停調書では、判決等による登記として当事者の一方からの単独申請はできないものと考える。以上

 

例えば、

甲土地の被告B持分につき、被告Bは原告Aに対し、本日付け共有物分割を原因として、B持分全部移転登記手続きをし、同じく、甲土地につき、原告Aも登記権利者として被告Bに対して、B持分全部移転登記手続きをする。

乙土地の原告A持分につき、原告Aは被告Bに対し、本日付け共有物分割を原因として、A持分全部移転登記手続きをし、同じく、乙土地につき、被告Bも登記権利者として原告Aに対して、A持分全部移転登記手続きをする。とかであればよかったか?

 

あくまで事前照会で、実際、登記申請してみた場合、結果、変わるかもしれませんが・・・

 

(事前照会の結果)この場合、

判決等による登記として当事者一方から登記申請ができませんので、通常の共同申請をするか、相手の協力を得られない場合は、別途「登記手続きをせよ」を求めて訴え提起する必要があります。

なお、甲土地と乙土地が、分筆登記により、分かれてそうなっている場合、共有物分割による移転登記は、分筆前の土地をいっしょに登記(甲土地及び乙土地の持分全部移転登記を連件で登記申請)する場合にのみ登録免許税の税率が1000分の4とされていますので(ただし共有物分割前より増加する部分は1000分の20で複雑な計算が必要となります)、別々にする場合は、原則の1000分の20になり、いっしょに登記できない場合は登録免許税が高くなります。

ちなみに、調停調書などの文言が「共有物分割に伴う価格賠償(代償金)〇〇万円の支払と引き換えに、〇年〇月〇日共有物分割を原因とする持分全部移転登記手続をする」など引換え給付等になっている場合は、裁判所で執行文の付与が必要となります(民事執行法177条 意思表示の擬制)。民事執行法で「執行文が付与された時に意思表示をしたものとみなす」となっていますが、これは登記申請の意思のことで、登記原因日付は(あくまで)調停調書に記載の原因日付になります。執行文が付与された日付にはなりません。調停調書記載の原因についての登記申請の意思表示が、執行文の付与されたことにより、したものとみなされるということです(登記申請の執行の要件)。

調停調書などによる相続登記(メモ) - 司法書士とくの日記(ブログ)

共有物分割の登録免許税 - 司法書士とくの日記(ブログ)

sikkoumemo

 

判決等による登記権利者の単独申請(所有権移転登記)の場合も、もし、登記義務者の住所が登記簿上と異なる場合は、その前提として登記義務者(所有権登記名義人)の住所変更登記は必要となります。その住所変更登記は、判決等を添付して登記権利者が代位でできますが、住所の変更が判る住民票や戸籍の附票が必要となる点は、変わりません。もし、住民票などの住所変更証明書が、期間経過で破棄など、なんらかの事情で添付できない場合は、所有権の登記済証(権利証書)・登記識別情報の添付、上申書(印鑑証明書付き)の添付などが考えられますが、判決等でするような事案では、登記義務者の協力が得られない場合が多く、ケースによっては、権利実現(登記)に支障(多大な労力等)が生じることもあります(判決等に登記簿上の住所と現在の住所の記載があり、それで住所変更が判る場合でも、その判決等が住所変更証明書になるかどうかについては、消極に解されています)。

住所の沿革が証明できない場合、(法務局と相談の上)当該判決等、及び取得できる限りの住民票や戸籍の附票と不在籍不在住証明書でOKの場合が多いと思いますが、外国人の場合は困難を極めることも考えらえます。この辺は(法務局に対して)判決等の内容などにより柔軟な対応をお願いしたいところです。

住所変更登記で登記識別情報添付 - 司法書士とくの日記(ブログ)

和解調書の住所と不動産登記 - 司法書士とくの日記(ブログ)

宣誓供述書(住所変更証明書) - 司法書士とくの日記(ブログ)

 

登記名義人表示変更登記の省略の可否(登記研究611号)

要旨 判決による所有権移転の登記を申請する場合において、申請書に添付された判決正本に登記義務者である被告の住所として、登記簿上の住所と現住所が併記されているときであっても、その前提として登記名義人表示変更(更正)の登記を省略することはできない。

問 判決による所有権移転登記を申請する場合において、原因証書である判決正本に、登記義務者である被告の住所として、登記簿上の住所と現住所が併記されているときであっても、その前提として登記名義人表示変更(更正)の登記を省略することはできないと考えますが、申請書に登記義務者の登記簿上の住所を記載すれば、これをする必要がないとする見解(質疑応答登研427号102頁)もあることから、いかがでしょうか。

答 登記名義人表示変更(更正)の登記は省略することができないものと考えます。

 

登記の添付書類として、正本か、謄本でもよいか?

不動産登記法63条1項に規定する、もともと申請を共同でしなければならないとなっているものを判決等で単独申請できる場合で、その単独申請で添付する、判決書や和解調書、調停調書などは正本でなければなりません(不動産登記令第7条1項五ロ(1))。これと異なり、相続登記申請で添付する遺産分割調停調書や遺産分割審判書については、謄本でもかまいません。その他、遺産分割が公正証書でなされている場合の公正証書や、公正証書遺言なども謄本でかまいません。ちなみに(判決等による単独申請の前提として)代位で住所変更登記をする場合などの代位原因証明情報としての判決等についても(正本でないとダメという規定はありませんので)謄本でかまいません。

(遺産分割の調停が成立し、これに基づき所有権移転登記を申請する場合の申請書に添付する相続証明書は、その謄本で足りる(登記研究527号174頁))

調停調書などによる相続登記(メモ) - 司法書士とくの日記(ブログ)