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相続放棄をする必要はありません(でした)

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被相続人 A(兄)

Aには、いろいろなところに多額の借金があったため、次のとおり「相続人全員」が相続放棄家庭裁判所相続放棄申述)をしました。

(一部、事案は変えています)

 

まず、相続人は、子でした。

(兄Aは、その子がまだ幼いころ、妻とは離婚しており、子は妻に引き取られたため縁がなくなっていましたが)その子が全員相続放棄をしたため、

次の相続人が母B(父はすでに死亡、母は存命していた)となり、その母Bも相続放棄をしました。

直系卑属である子、直系尊属である母も相続放棄をしましたので、

次の相続人は兄弟姉妹となり、

妹C、弟D(相談者)の兄弟姉妹全員が相続放棄をしました。

(先に死亡している兄弟姉妹はおらず、甥姪は出てこない)

 

よって、Aについて相続人がいなくなりました

その後、母Bも亡くなる。

 

その数年後、妹C、弟D(相談者)あてに、ある債権者(亡くなった兄Aの借金の債権回収会社)から次のような書類が届く・・・

「あなたの兄である(亡)A様には次の負債(借金)があります。その相続人である母のB様は、その後、(相続放棄をせずに)亡くなりましたので、そのお母様の相続人である貴殿は法定相続人として負債を承継されています。よって、貴殿には、この(亡)A様の負債の返済義務があります(うんぬんかんぬん)・・・・」

 

相談者のDさん(弟)は、この書類を見て(動揺して)、

(自分も含めて)母Bが兄の(亡)Aの相続について相続放棄をした認識はありましたが、

母Bが相続放棄をすると、その子(すなわち自分)が承継するのか?

兄のAだけでなく、母Bの相続についても相続放棄をする必要があるのか?

と考え、

なんと、この書類が届いた後、母Bの相続について相続放棄の手続き(家庭裁判所相続放棄申述)をされていました。

そして、妹のCさんのところへも同じような書類が届いており、妹のCさんも、同様に母Bの相続につき相続放棄の手続きをされていました。

なお、母Bには借金等はありません。

 

相談者のDさん(弟)は、兄の(亡)Aの相続について相続放棄をしたことが判る家庭裁判所からの「相続放棄申述受理通知書」を持っておられましたので、母が(兄の(亡)Aの相続につき)相続放棄をしていることは(ほぼ)間違いありません(母が相続放棄をしないと、兄弟姉妹は相続人として出てきませんので・・・。ただ、母が熟慮期間内に相続放棄をせずに死亡し再転相続が生じているような場合は、(母の相続人が兄Aから母への相続につき相続放棄をして)母自身は相続放棄していないということは考えられますが)。

ただし、債権者には戸籍だけでは相続放棄がされているかどうかわからないので、このように「相続放棄がなされていない前提」で請求の書類を送ってきます。

 

どうも、相談者のDさんは、(母が)相続放棄をすると、(母から)その子が相続(代襲相続のような)すると勘違いされたようです。

今回の相談はDさんの子も相続放棄しないといけないのか??という相談でしたので・・・

相続放棄をしても代襲相続が生じることはありませんので、その必要はありません。

相続放棄をした人からその下(子)へ(代襲)相続が生じることはありません(相続放棄代襲相続の原因とはなっておらず、相続放棄をすれば、「そこまで」になります)。

 

この事例では、兄Aさんの相続については、きちんと相続人の全員が、相続放棄をされていますので、相続人は不存在で、兄Aの債権者は誰にも請求できない状態となっています。

Dさんは、わざわざ母の相続について相続放棄をしなくても、債権者へ「兄Aについて相続放棄をしている」旨を通知するだけでよかったことになります。

 

私「お母様の相続について(相続放棄により)相続人ではなくなっていますが、それは支障はなかったのですか?」

相談者D「預貯金はほとんどなかったのですが、田舎に、母名義の不動産があります・・・」

私「・・・・」

 

現在、(亡)母親の相続人は、子のCDが相続放棄をしましたので、(先に亡くなっている)Aの子(母からみて孫)が代襲相続人となっていると思われます。Aの子とは音信がなく(縁がなく)、このような書類が届いているかどうかは不明。

(ちなみに、もしAの子もBの相続につき全員相続放棄をして直系卑属がいなくなった場合(直系尊属もいない)は、母親Bの兄弟姉妹が相続人になりますが、その兄弟姉妹は全員母親より先に亡くなっているようで、その場合、(母からみての)甥姪(兄弟姉妹の子)がいれば、その方が相続人となります)

 

(このように勘違いで要らぬ相続放棄をしたために)

田舎にある(亡)母名義の不動産は、実際は、Dが管理しているが、まったく縁のないAの子のみが所有者(相続人)であろうということで、この不動産はどうするのか?

さらに、後で、この自分でした(母の相続についての)相続放棄を自ら錯誤として取消すことができるのか?・・・というあらたな問題ができてます。

これはむずかしい問題で、相続放棄申述書に、その辺のことが明確に記載されていて、実は「そうではなかった」「放棄する必要がなかった」「勘違い」ということであれば、錯誤取消(新民法95条)を理由に家庭裁判所相続放棄取消の申述ができるかもしれません。また、もし、これについてAの子と争いになった場合は、その争いの遺産分割審判や訴訟の前提問題として取消しを主張できると思われます。

 

民法919条(相続の承認及び放棄の撤回及び取消し)

1.相続の承認及び放棄は第915条第一項の期間内でも、撤回することができない

2.前項の規定は第1編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない

3.前項の取消権は追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは時効によって消滅する相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも同様とする

4.第2項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者はその旨を家庭裁判所に申述しなければならない

 

民法95条(錯誤)

意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる

1.意思表示に対応する意思を欠く錯誤

2.表意者が法律行為の基礎として事情についてのその認識が真実に反する錯誤

前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されているときに限りすることができる。

・・・・・

(ただし、経過措置で令和2年4月1日より前にされた意思表示については、改正前の旧民法の適用となっており、旧民法では、錯誤は、「取消し」ではなく「無効」になっています)

 

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