司法書士とくの日記(ブログ)

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再転相続と放棄って、めっちゃくっちゃ、ややこしいわ

再転相続として次の2つの例を考えていました。

結論は出ていません(すこしドツボにはまっています)・・・

 

再転相続(1例)

1、被相続人A(女)が多額の借金を残して令和2年4月に死亡(ただし所有不動産あり)

 

2、被相続人A(女)の相続人は次の2名(第一の相続)

相続人B(長男)と相続人C(長女)
なお、Aの夫は先に死亡しているが、夫には前の妻との間に子Xがいる。
このXはAの相続人ではありません(BCからみると、母違いの兄弟姉妹になります)。

 

3、相続人のBが、Aの相続につき相続放棄家庭裁判所へ申述)をしない間に令和2年6月に死亡

 

4、被相続人Bの相続人は次の2名(第二の相続)
Bの妻D
Bの長男E

 

5、A→B→DE(A→BC、B→DE)

BがAの相続につき、(熟慮期間内に)承認も相続放棄もしないで死亡した場合、これを再転相続といい、DEは(Aの直接の相続人ではありませんが)再転相続人として、A→Bの相続について相続放棄をすることができます(民法916条。最判昭和63年6月21日)。

相続放棄の3か月の熟慮期間の起算日については、参考として最後に判例を記載しています)

 

6、Bの相続人である妻Dと長男Eが、再転相続人として(熟慮期間内に)「第一のA→Bの相続」について相続放棄(家庭裁判へ申述)をする。ただし、第二の相続(B→DE)については、相続放棄はしていない。

この場合、被相続人Aの相続人は、Cのみになるのか(Cは放棄していないとして)?
再転相続人の放棄が、Bの「相続放棄をする権利」を承継してなされたものだとすると、Bが放棄したのと同視でき、Cのみが相続人となる(承継説)。

しかし、次のような考え方もあります(実務的には家庭裁判所はこの説を取っているように思われます。法務局は不明)。
再転相続人の放棄は、あくまで固有の権利としてなされたものであり(固有説)、
Bが放棄したのとは同視できず(B自身が放棄した訳ではない)、相続人はCと、(Bの次順位の相続人であるBとは母違いの)兄弟Xが相続人となる。Aの財産はCとXが相続、Bの財産はDとEが相続

 

仮に(Dはせず)Eだけ、もしくは(Eはせず)Dだけが、A→Bの相続について相続放棄をした場合はどうなるのか?

 

なお、この場合の相続放棄申述受理通知書は、(私が経験したものだが)「第一のA→Bの相続」について放棄したとは記載されておらず、(通常の相続放棄と同様)ただ単に申述人D(もしくはE)、被相続人Aとなっているだけである(これだけ見ると、再転相続における放棄なのかどうかわからない)。

 

さらに別の再転相続の例(2例目)

1、兄Aが多額の借金を残して死亡

 

2、兄Aの妻子全員が相続放棄家庭裁判所へ申述)

 

3、次順位の直系尊属の母Bが相続人となる(父はすでに死亡している)。

 

4、次順位の母Bは(熟慮期間内に)相続放棄をすることなく死亡

 

5、母Bには、子が二人いる。一人は前掲の兄A(すでに死亡)、もう一人はC(Aの弟)。兄A→母B→母Bの相続人は、弟C(兄Aからみて弟、母からは子)と、兄A(兄Aは母Bより先に死亡)の子(代襲相続

 

6、このように、母Bは、Aの相続につき、(熟慮期間内に)承認も相続放棄もせずに死亡し、相続が発生している(これを再転相続と言います)。

 

7、弟のC(相談者)は、兄Aの多額の借金は承継したくない。ただし、母Bの相続については、相続したい。

 

8、母Bの相続人である、弟Cと、兄A(母Bより先に死亡)の子(代襲相続人)は、母Bの相続人の地位(再転相続人の地位)で、兄Aの相続(兄Aから母Bの相続)につき、相続放棄をすることができるか?なお、弟Cと、兄A(母Bより先に死亡)の子(代襲相続人)は、兄Aの直接の相続人ではない。

 

再転相続として次の二つの相続が生じている。

・第一の相続(兄Aから母Bへの相続)

・第二の相続 再転相続(母Bから、弟Cと兄A(母Bより先に死亡)の子(代襲相続)への相続)

 

(例1と同様)第一の相続につき、母Bの相続人は(Aの直接の相続人ではありませんが)熟慮期間内であれば相続放棄することができます(再転相続人の相続放棄)。

 

第一の相続と第二の相続について、放棄、承認の可否は次のとおり最判昭和63年6月21日)

① 第一の相続 承認、第二の相続 承認 両方とも承認はOK

② 第一の相続 放棄(熟慮期間内)、第二の相続 放棄(熟慮期間内)両方とも放棄はOK(注意 ただし、第二の相続の放棄を先にしてしまうと、第一の相続の放棄はできなくなる。第一の相続を放棄をしてから、第二の相続を放棄した場合は、第一の相続の放棄が無効になったりはしない)

③ 第一の相続 放棄(熟慮期間内)、第二の相続 承認 第一の相続だけ放棄OK

④ 第一の相続 承認、第二の相続 放棄(熟慮期間内)✖(第二の相続を放棄して、第一の相続だけ承認することはできない) 

*第二の相続を放棄すると、再転相続人の立場からは財産を承継しないという意味では(実質)第一の相続も放棄したことになる

③の場合が複雑

兄A→母Bの相続(第一の相続)のみの相続放棄は、母Bの相続人全員(弟Cと、兄Aの子)がする必要があるのか?

兄Aの子はすでに兄A(父)については相続放棄をしている。必要とすれば、同じ兄Aについての相続放棄だが、これは、(兄Aからの直接の相続についてではなく)兄A→母Bの相続(第一の相続)の放棄となる。

母Bの「相続放棄をする権利」を承継し、その承継人としてするとすれば(承継説)、母Bの相続人全員がすることになろう。弟Cだけして、兄Aの子はしないとすると、兄Aの借金はどうなるのか?兄の子だけ母Bから代襲相続で承継?(相続人の固有の権利であるとする固有説からすると、全員がする必要はない(個別にそれぞれが考えてすればよい)ということになりそうだが・・・)

また、兄Aの子はすでに兄A(父)については子として相続放棄をしているのだから、兄A→母Bの相続(第一の相続)の放棄もしているもの(含有する)として、あらためてする必要はないとも考えられる(?)。

 

弟Cと兄Aの子が、兄A→母Bの相続(第一の相続)を相続放棄した場合、結局、兄Aの相続人は誰になるのか?

(1)弟Cと兄Aの子は、母Bの相続放棄をする権利を承継しており、その承継人(相続人)として母に代わって放棄をしたのであり、母Bが相続放棄したのと同じと考えれば(承継説)、またまた第三順位の相続人(兄弟姉妹)である弟のCにめぐってくる?しかし、弟Cはすでに兄A→母Bの相続(第一の相続)だが、兄Aの相続については、放棄しているのだから、あらためての放棄は変なので、兄A→母Bの相続(第一の相続)の相続放棄は、次の兄A→弟Cの相続の放棄も含有しているとして、相続人不存在になるのか?それとも、あらためて第三順位の相続人として放棄が必要なのか?

(2)または、あくまで兄A→母Bの相続(第一の相続)の放棄は、母Bが放棄した訳ではなく、弟Cなどが(自分の固有の権利として)したのだから(固有説)、母Bから見て、次順位の母Bの兄弟姉妹へ(母Bの直系尊属は死亡しているとして)??兄Aの相続人として母Bの兄弟姉妹(甥姪)が出てくる??(一瞬そんな馬鹿な!と思いましたが、でも④のパターンで第二の相続だけ放棄した場合は、そうなるし、②のパターンは?)

ここまでくると訳が分からなくなってくる。

とにかく、兄Aの負債を相続したくないということで、(1)を正解とし、兄Aについては相続人不存在(妻子が放棄、母も放棄、弟も放棄)が一番すっきりするのだが・・・。

 

(参考)

なお、熟慮期間(3か月)について

最高裁 令和元年8月9日判決
(再転相続のときの熟慮期間の起算日・開始日は)相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時から

1例目の場合は、「DEが、Bからの相続により、Aの相続人の地位を、自分(DE)が承継した事実を知った時から」となる。

2例目の場合は、「弟Cが、母Bからの相続により、兄Aの相続人の地位を、自分(弟C)が承継した事実を知った時から」となる。

再転相続人にとって有利な判断がなされています。

 

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