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成年後見(本人のためにある)

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今日から、コンビニに行く際、袋を忘れずに持っていくようにしないと・・・

 

さて(話しは変わって)、

成年後見人が、ご本人(被後見人)所有の自宅(過去、住んでいた自宅を含む)を売却したり、誰かに賃貸する場合、家庭裁判所の許可」が必要となります。

 

例えば次のようなケースはどうでしょうか?

以前、住んでいた、ご本人(被後見人)所有の自宅(土地、建物)がある。しかし、現在は「空き家」になっている。

現在、ご本人(被後見人)は施設に入所している。

(*現在、施設入所しているが、施設入所直前まで居住していた建物は家庭裁判所の許可が必要な「居住用不動産」にあたります)

施設で落ち着いて生活されており、自宅に戻って生活する見込みはない(介護が必要で自宅での一人暮らしは困難)。

ご本人に、自宅に戻りたいなどの訴えはなく、自宅の売却について、ご本人に反対の意思(売らないでほしい、残しておいてほしいなど)はない。

空き家となっている自宅維持のため、固定資産税、火災保険料、ホームセキュリティサービス、定期的な植木の伐採などの費用がかかっている。築年数はそんなに古くなく空家のままでは家も傷んできて、資産価値が減っていく。売却できないような物件ではない。

このような場合、空き家のままで維持するのは、費用ばかりかかるので(財産減少)、売却するのが良いのでは? という考えが生じます。

 

そこで、成年後見人が、売却を進め、家庭裁判所に自宅売却の許可を求めた場合、許可はされるでしょうか?(なお、家庭裁判所に許可を求める時期は、買主、売却代金が決まってからになりますので、ある程度、進んだ段階になります)

 

家庭裁判所の許可を得るためには、買主や売却代金の相当性、妥当性はもちろん必要ですが、まず、「売却自体の必要性」があるかどうかが重要となります(審査されます)。

空き家のままで、費用がかかっているのだから、必要性はあるだろう、と思いがちですが・・・

 

例えば、ご本人に他に多額の財産があり(資産家の場合)、自宅を売却しなくても、固定資産税などの自宅維持のための費用を負担し続けても、亡くなるまでの生活には何も支障がない場合(それぐらい資産が十分ある場合)はどうでしょうか?

 

この必要性というのは、まず第一に、ご本人にとって、必要かどうかで、それは、売却代金が、ご本人の(現在や将来を含めての)生活や療養介護などの費用に必要かどうか(または、空家となっている自宅を売却しないと、その維持費負担のため本人の生活が立ち行かなくなってくる場合)、ということになります。

 

ですから、ご本人に他に多額の財産があり、自宅を売却しなくても、亡くなるまでの生活に何も支障がない場合は、その「必要性がない」ということになります。

 

それじゃ、「自宅維持のための費用がかかり、本人の財産が減ってしまうじゃないか」

ということですが(経済的合理性)、

(他に多額の財産があり

本人の生活状況は、自宅を売却しても売却しなくても同じ(また、他の財産で、空家の維持費負担も十分できる)、

仮に売却しても、その売却代金は、預金として保持されるだけで、別に使う必要がない、

ということであれば、たとえ、自宅売却しなければ、その自宅維持のために財産が減っていくとしても、自宅売却は「本人のためではない」ということになります。

売却代金を「本人のために使う必要がある」というのが「必要性がある」ということで、

売却すれば、財産が減っていくのは防げるが、売却代金は預金されるだけ、

というのであれば、どちらかといえば、本人のためではなく、(将来、ご本人が亡くなった際の)相続人のための必要性(相続財産が減るのを防ぐため)になってしまいます。

 

ですから、このような他に多額の財産があるケースでは、一般的に、家庭裁判所の許可は出にくいと言えます。もちろん、ケースバイケースで、他の要素も絡んできますので、許可が出ないとは言えませんが、許可を受けるのは困難と認識しておいた方がよいと思われます(経済的合理性だけで安易に許可は出るだろうと考え売却を進めると、どんでん返しをくらう場合もありますので注意が必要です)。裁判所は、(許可を出すというのは責任も生じますので)本人のための明確な必要性がない場合は許可しない傾向があります。自宅維持に固定資産税やその他の費用がかかるのは当たり前で、これがご本人の生活を圧迫しているのでなければ、許可を受ける理由とはなりにくい。

(住まなくなってから3年以内に売却しないと、譲渡所得税の3000万円控除が受けられないなんて税金に関するものは、ほとんど理由にはなりません)

ご本人が高齢の場合、将来、相続が発生したときに、相続人の方で、売却するのかどうかなど、考えてもらうのがよい、という配慮もあると思います。

なお、推定相続人などのご親族が売却に同意しているというのは許可を得るための一つの要素にはなり得ますが、これは補助的なものにすぎず(実際、相続が生じた場合、どうなるかわからない。通常、裁判所が親族一人一人に確認しない。基本、親族は関係がない、ので)、やはり本人のために必要かどうかが一番重要になります。

それじゃ、(このようなケースで)本人が「相続人にできるだけ多くの財産を残しておきたい、売却してほしい」という意思(希望)がある場合は?それが確認できるものがあれば、許可を受ける要素になると思いますが、本人の状況によっては、それを疎明するのはむずかしい場合があります。(児孫のために美田を買わず・・・)

やはり、「客観的に、本人の生活(広く全般を指しますが)のために必要」というのが許可を受ける大きな条件になると思います。

これがない場合は、成年後見人としては「(自然損耗はしかたがない、費用はかかっても)たんたんとご自宅を現状のまま維持するのに務める」ということになります。

(空家のままで何年も?経済的合理性はどうなの?これが非難の対象になったりする場合もありますが、後見制度では、視点が異なるという話です)

売却が必要となるまで財産が減らないと許可を得にくいともいえます。

それでは、このようなケースで、賃貸どうか?

賃貸は、借地借家法の適用(借家人保護。一度賃貸すると明け渡しが困難)があって、処分(売却)と同様に見られるので、許可を得にくいと思われます。賃貸管理のむずかしさや、将来の相続のことを考えると、売却より許可を受けにくいかもしれません。

 

・・・今回の話は、十分財産がある、資産家のケースでした(簡単には許可が出ないかもしれない注意を要するケース)。 

(財産が多くない場合でも、自宅の維持費を負担しても収支がプラスで他にお金を使う必要がない場合も同様になります)

 

自宅売却が本人のために必要ということであれば、裁判所は許可が出しやすいが、その必要性が低い場合は、空家のままで保持は確かに費用がかかり手持ちの財産が減少していても、(財産と収支はある程度はっきりしているが)その他の理由は不確定要素が多く、本人の気持ち、将来のこと(100%自宅に戻る可能性はないといえるか、不動産の価格変動)、いつお亡くなりになり、いつ相続が発生するか、相続の時にどうなるか、どうなっているのか、また、売却についても、いろいろな諸経費はかかり、成年後見人の報酬にも反映され、売却に経済的合理性があるのかどうかも、「本当のところ、わからない」ということになるので、許可は出しにくいと思われます。(倒壊の恐れがあり、隣近所などから損害賠償請求されるリスクがある、など客観的な特別な事情があれば、また別ですが・・・)

さらに、「遺言」があるような場合は、ご本人の遺言意思に反しないように、という配慮も加わってきます。例えば、後見制度支援信託(成年後見人の横領等、不正防止のため、裁判所の指示のもとでしか出入金ができない特別な信託)というものがありますが、これの利用を検討する場合で、もし、遺言がある場合、特に遺言の内容が「特定の預貯金を(指定して)、誰それに」となっている場合は、(その預貯金を別の銀行に)信託してしまうと、その遺言内容(本人の遺言意思)が実現できなくなってしまいますので、後見制度支援信託の利用はできないということ(方向)になります。自宅の売却も、遺言があり、その内容が「自宅を(特定の)誰それに」となっている場合は、売却してしまうと、その遺言内容(本人の遺言意思)が実現できなくなってしまいます。特定されておらず「すべての財産を包括的に誰それに」となっている場合は、また別ですが(できる可能性がある)、遺言の内容はわからないこともあります(もともと遺言自体の存否がわからない場合も多い)。この辺の配慮が必要となってきます。

 

余談

成年後見人は、(本人の生活費捻出のために節約が必要という場合は別ですが)本人の財産をできるだけ維持し減らさないというのが役割ではなく(もちろん、積極的に資産運用をして財産を増やすという役割はありません。むしろ、それをしたらダメという場合が多い)、十分な財産がある場合は、本人ために必要があれば積極的に「使う」、というのも役割になります。

できるだけ財産を残しておく、というのは、相続人のためにはなりますが、成年後見人がそれを考えてはダメで、(ご本人の希望も含め)ご本人に必要なものは、(ご本人の財産から)捻出可能であれば、積極的に捻出するということが必要になります。

(この点だけを考えた場合ですが)推定相続人や(予定)受遺者が成年後見人になるのは弊害があるのかなと思ったりします・・・(微妙な問題ですが)

 

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