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根抵当権の債務者が死亡し、相続が開始した場合

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昔のボツネタを復活させています。

 

根抵当権の債務者が死亡し、相続が開始した場合


雑貨屋を営んでいるAさんのお店(土地・建物、名義はA)には、
取引銀行が根抵当権者となり、Aさんを債務者として根抵当権が設定されている。
Aさんが死亡し、家業を息子であるBさんが引き継ぐことになった。
Aさんの相続人は、妻と息子1人(B)・娘1人である。
こういう場合、この根抵当権の処理はどうすればいいのか。

根抵当権の債務者が死亡した場合は、
その死亡の日から6ヶ月以内に後継債務者を定める合意の登記をしないと、
相続開始時に元本は確定したものとみなされます。

例えば、平成11年4月1日の午後2時に死亡した場合、
6ヶ月後の10月1日までに指定債務者を定める合意の登記をしないと、
根抵当権は4月1日の午後2時に確定したものとみなされます。
(6ヶ月の期間満了日が、土曜・日曜などの官庁の休日にあたるときは、休日の翌日まで期間が延長されます)
したがって、根抵当権は、ほっておくと元本が確定してしまいますので、
この取引銀行と今後も取引を継続し、当該根抵当権を活用する場合は、以下の登記手続が必要となります。

登記手続
1、相続による所有権移転登記(債務者兼設定者の場合)

2、根抵当権についての債務者の変更登記

債務は相続人全員に相続されます。したがって、根抵当権の債務者は相続人全員ということになります。

3、根抵当権についての指定債務者の合意の登記

根抵当権者と設定者との間で、
2で登記した相続人の中から指定債務者を合意し、
その登記をすれば、根抵当権は死亡時まで負担していた債務と、
指定債務者が相続開始後に負担する債務を担保することになります。

例えば、お店については遺産分割で妻と息子B名義にし、息子が家業を引き継ぐということで、
根抵当権の指定債務者は息子のBにする場合

1、相続による所有権移転登記をして、妻と息子B名義にする。

2、根抵当権の債務者を相続人である妻・息子B・娘に変更の登記をする(根抵当権変更登記)。

3、銀行と妻・息子Bで合意をした指定債務者Bの登記をする(根抵当権変更登記)。

これで、相続開始後については、
指定債務者である息子のBと銀行との間で生ずる債務を当該根抵当権で担保するということになります。

相続開始までの債務は当然担保され(債務者は相続人全員)、
相続開始後は指定債務者との間の債務だけが担保されることになります。

ちなみに、相続開始までの債務については、
共同相続人は各々相続分に応じて分割された債務を負担することになります。

<1の相続を原因とする所有権移転登記をするときの必要書類(一般的)>

遺産分割協議書(遺産分割をした場合・相続人の印鑑証明書付)・被相続人の戸籍謄本・相続人の戸籍謄抄本・相続人の住民票の写し・司法書士への委任状(司法書士へ依頼した場合)

<2・3の根抵当権変更登記をするときの必要書類>

権利証(1の登記済証もしくは登記識別情報)・設定者の印鑑証明書(所有者の分・例では妻と息子B)・根抵当権変更契約証書(合意証書)・司法書士への委任状(司法書士へ依頼した場合)

2と3の登記の登記権利者は金融機関の抵当権者、登記義務者は設定者(所有権登記名義人)の妻と息子B

1の登記の登録免許税は、不動産の価額(課税価格)の1000分の4。

2と3の登記の登録免許税は、不動産1個につき 1,000円。

 

<併存的債務引受>
相続開始までの債務については、共同相続人は各々相続分に応じて分割された債務を負担しており(妻・息子B・娘が負担)、
「債権の範囲」中の相続債務については、当該根抵当権で担保されている。
妻と娘の相続債務を息子Bが債務引受け(併存的、重畳的)をし、
それも当該根抵当権で担保する場合の登記手続き(指定債務者の登記完了済み)。
指定債務者の登記があり元本が確定していない場合。
併存的(または重畳的ともいいます)債務引受けというのは、
債務を引き受けてもらう人(妻、娘)が、そのまま債務者として残り、
債務の引受けをする人は、その債務につき連帯債務者となるものです。

債権の範囲を変更する

「年月日併存的債務引受(旧債務者 妻、娘)にかかる債権」を追加

息子Bが併存的(重畳的)に債務を引受け、連帯債務者となり、その債務も担保されることになる。

債務者はそのまま

相続開始時の債務については、妻・娘・息子B(妻と娘の債務につき息子Bは連帯債務者)

相続開始後の債務については、指定債務者 息子B(相続開始後の息子Bの債務のみが担保される)

 

<免責的債務引受>
免責的債務引受の場合は?すなわち、妻と娘が債務者からぬける場合

債務者を息子Bに変更

債権の範囲につき以下を追加

・「年月日債務引受(旧債務者 妻、娘)にかかる債権」

・「年月日相続による息子Bの相続債務のうち変更前根抵当権の被担保債権の範囲に属するものにかかる債権」

になると思います。

免責的債務引受で、債務者を息子Bに変更する
(「相続債務については、債務者は妻、息子B、娘の3名、
相続後に発生する債務については指定債務者の息子B」になっているところ、「息子B」のみにする)
ということは、相続債務につき妻と娘分は
債権の範囲「年月日債務引受(旧債務者 妻、娘)にかかる債権」追加でカバーできますが、
これのみの追加だと息子Bの相続債務はカバーされなくなってしまう
(カバーされていた元債務者Aの債務だが、債務者を息子Bのみにしてしまうと、
相続で引き継いだ債務というのは債権の範囲に入っていないのでカバーされなくなってしまう)ので、
債権の範囲に「年月日相続による息子Bの相続債務のうち変更前根抵当権の被担保債権の範囲に属するものにかかる債権」
も追加することになります。

この辺りの手続は、ケース(元本確定前、元本確定後、上記の例)により異なると思われ、やや複雑です。

 

免責的債務引受の場合(参考)
1 登記申請情報の要項
(1)登記の目的 根抵当権変更
(2)登記の原因 平成〇年〇月〇日変更
(3)変更すべき根抵当権
平成〇年〇月〇日受付第〇〇〇〇号 根抵当権
(4)変更後の事項
債権の範囲及び債務者
下記「2 登記の原因となる事実又は法律行為」に記載のとおり
(5)当事者
登記権利者 本店 〇〇銀行
登記義務者 住所 氏名〇〇(妻)、住所 氏名〇〇(息子B)
(6)不動産


2 登記の原因となる事実又は法律行為
(1)免責的債務引受(元本確定前)

平成〇年〇月〇日、根抵当権者の〇〇銀行、債務者の〇〇(設定者 妻)、〇〇(設定者 息子B)、〇〇(娘)の4者間で、
次の債務引受に関する契約(合意)をした。根抵当権者(債権者)の〇〇銀行は、次の債務引受につき承諾をしている。
〇〇(妻)、〇〇(娘)の2名が負担しているところの本件根抵当権で担保されている債務のすべてにつき、
債務者の一人である〇〇(息子B)がこれを引き受け、〇〇(妻)及び〇〇(娘)は債務から免れること、
及び〇〇(息子B)は、原契約の約定にしたがって債務を履行すること。

(2)上記債務引受により、本件根抵当権根抵当権者である〇〇銀行と根抵当権設定者である〇〇(妻)、〇〇(息子B)は、
平成 年 月 日、本件根抵当権の債権の範囲及び債務者を次のとおり変更することを約定した。

 

債権の範囲

信用金庫取引 手形債権 小切手債権 電子記録債権

平成 年 月 日債務引受(旧債務者 〇〇(妻)、〇〇(娘))にかかる債権

平成〇年〇月〇日相続による〇〇(息子B)の相続債務のうち変更前根抵当権の被担保債権の範囲に属するものにかかる債権

債務者

住所 氏名〇〇(息子B)

 

平成 年 月 日

上記のとおり相違ありません。

登記義務者

住所 氏名(妻) 印

住所 氏名(息子B) 印

 

債権者(抵当権者)、旧債務者、新債務者(債務引受人)、設定者(不動産の所有者)の4者間で契約している場合は、新民法でも大丈夫と思います。

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