司法書士とくの日記(ブログ)

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死亡保険金の受取人が亡くなっている場合

ある、ご夫婦

子供がいないので、ご夫婦(妻と夫)お互い遺言書を作成されていました。

遺言がない場合、それぞれの兄弟姉妹が相続人として出てくる(代襲で甥姪も出てくるかも)ので、遺言書作成は、配偶者の権利を確保する意味と、相続が複雑になるのを避ける意味もあります。

 

遺言の内容(一例)

夫の遺言

妻へ全財産を相続させる。

もし、妻が先に死亡(同時死亡含む)していた場合は、〇〇〇〇(夫の兄弟姉妹の一人など)へ相続させる。もし、その人に同じ事態が生じていた場合は、〇〇〇〇(甥、姪の一人など)へ相続させる。

妻の遺言

夫へ全財産を相続させる。

もし、夫が先に死亡(同時死亡含む)していた場合は、〇〇〇〇(妻の兄弟姉妹の一人など)へ相続させる。もし、その人に同じ事態が生じていた場合は、〇〇〇〇(甥、姪の一人など)へ相続させる。

きちんと予備的遺言がなされています。

きちんと遺言執行者も定められていました。

 

しかし、次のような生命保険がありました。

契約者 妻

被保険者 妻

死亡保険金の受取人 夫

 

夫が亡くなり、遺言に基づいて夫の財産は妻へ相続されました。

夫が亡くなった後、妻は前から認知症状あったため、財産管理等の必要性から、ご親族の申立により司法書士などの専門職が妻の成年後見人に就任。

上記の生命保険ですが、受取人の夫が亡くなりましたが、受取人は夫のままになっていました。

成年後見人は、この受取人については、多少気にはなっていましたが、受取人の変更については、(誰を受取人にするか、など)ご本人の意思確認はむずかしく、また、成年後見人が変更に向けて、積極的に動いたり、促したりするのは本来の職務(本人のため)ではありませんので(そのようなことはできず)、そのままになっていました。

成年後見人の立場としては、本人のための必要性がなければ現状維持が原則となります。

その後、妻がなくなり、遺言に基づいて妻の財産は妻の兄弟姉妹の一人に相続されました。

しかし、この生命保険の死亡保険金は受取人が夫のままになっていたため、保険金請求については、とても複雑で手間暇のかかるものになりました。

 

生命保険

契約者 妻

被保険者 妻

死亡保険金の受取人 夫

 

夫が死亡、その後、妻が死亡した場合

死亡保険金の受取人は誰がなるのか?

 

このような場合、保険法では、夫の(法定)相続人を受取人とする、となっています。

「保険法46条 保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる」

保険契約、約款もほとんどが同じようになっています。

夫の法定相続人には妻(さらに数次相続、順次相続の妻の相続人)も含まれますので(最高裁判所平成5年9月7日判決)、結局、夫の法定相続人と妻の法定相続人全員が受取人ということになります。

この死亡保険金の請求については、相続人が受取人といっても、相続ではありませんので(受取人固有の権利)、遺言は関係なく遺言執行者の権限外になります。

なお、保険金請求の割合は相続ではないため(法定相続分ではなく)民法427条により頭割り(均等)になるようです(最高裁判所平成5年9月7日判決)。

民法427条 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う」

頭割りといっても保険会社が相続人各人にそれぞれの分を支払ってくれる(振込してくれる)訳ではなく、多くの場合が「代表相続人を決めてください。その方に支払います。」ということになります。書類上は(相続人全員の)実印、印鑑証明書添付を求められることが多いです。

せっかく遺言で相続が複雑になるのを防止しても、保険がこのようになっている場合、保険金請求については、夫の法定相続人(夫の兄弟姉妹、甥姪など)と妻の法定相続人(妻の兄弟姉妹、甥姪)全員が関係してきて、とても複雑となります(戸籍で相続人全員を確定し、全員に連絡を取って、説明して・・・)。

 

(保険の約款例)「被保険者が死亡される以前に死亡保険金受取人が死亡され、死亡保険金受取人の変更手続きをされていない間は、死亡保険金受取人の死亡時の法定相続人が死亡保険金受取人となります。死亡保険金受取人となった方が2人以上いる場合は、その受取割合は均等となります。」すべての約款を調べた訳ではありませんが、ほとんど、このようになっていると思います。

 

保険の受取人については、保険契約で、遺言のように予備的にすることはできません。ただし、(現在は)遺言で保険の受取人は変更できるようになっていますので、遺言において、予備的に保険の受取人を変更する旨を定めることは可能です。

例えば、遺言で、「以下の保険について、受取人の夫が、契約者・被保険者である遺言者より先に死亡(同時死亡含む)していた場合は、受取人を〇〇〇〇(妻の兄弟姉妹の一人など)へ変更する。」などとしておく。遺言執行者を定め保険会社に変更の通知をきちんとできるようにしておく。

ただし、これ(遺言)で受取人変更が可能かどうかは(遺言作成の際)保険会社に確認をしておく必要はあると思います。変更できないケースもありますので。

夫死亡後、受取人を変更しておけばよいのですが、成年後見人が就任するような事態になった場合、変更することはむずかしくなります。

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