会社設立をする際、通常、定款で、「公告をする方法」を定めます(定款で定めない場合は、自動的に官報公告になります)。
この「公告をする方法」は、登記事項になっており、主に株主あてへの公告になります。
公告をする方法の種類は、次の3つとなります。このうち、どれかを選びます(会社法939条)。
1、官報
2、日刊新聞紙
3、電子公告
費用の点などで、多くの場合「官報」が選択されますが、今回、「電子公告」を希望される方がいました。
・・・しかし、結局、いろいろ検討された結果、官報公告に落ち着きました。
費用の点
日刊新聞紙が一番、高額
電子公告は、インターネットのウエブサイトに掲載するので比較的安くでできる。
ただし、電子公告をする場合は、本当にその期間掲載されていたかどうかを調査会社(電子公告調査機関)にチェックしてもらう必要があり、その費用が大きい、とか言われたりします・・・
それでは、公告するのは、どのような場合なのか?
会社で、この公告するのは、どのような機会か?
株式会社の場合、毎年しないといけない(いわゆる)「決算公告」(会社の貸借対照表を公告する)というのがあります。なお、有限会社や合同会社は決算公告の義務はありません。
それ以外は?
ここでいう公告は、あくまで株主あてへの公告(誰でも見れますが主に株主あてになります)のことで、
債権者保護手続きの債権者あて公告は、(官報以外を「公告をする方法」に定めていても)必ず「官報」になりますし、この(株主あて)公告の機会というのは、「決算公告」を除き、実際は、あまりないのではないかと思われます(法律ではいろいろ規定がありますが、株主が数人の小規模の会社の場合、その機会はほとんどないと思われます)。
電子公告をする場合、本当にその期間掲載されていたかどうかを調査会社(電子公告調査機関)にチェックしてもらう必要があり、その費用がかかります。
しかし、決算公告では、この調査は不要とされています。
この調査会社の費用負担を考え、電子公告はしないという選択もあるようですが、実際は、この調査が要らない決算公告が主で、それ以外はほとんどないのではないかと思われます。
ですから、まず気にしないといけないのは「決算公告」ということになります。
電子公告を選択した場合
掲載するURLを準備して、そのURLを登記しないといけない。
定款では「当会社の公告は、電子公告の方法により行う。」で大丈夫ですが、具体的なURLを発起人代表が決定して、それを登記する必要があります。
もし、このURLに変更があった場合、その変更登記をしなければならない。
官報や日刊新聞紙の場合、決算公告(貸借対照表の公告)は、1回、要旨の掲載で足りますが、電子公告の場合は、5年間、貸借対照表の全部を掲載する必要があります。
この(官報や日刊新聞紙の場合は、1回、要旨の掲載で足りるのに)電子公告の場合は、「貸借対照表の全部を5年間公告しなければならない」というのがネックとなる場合があります。会社法440条、940条
ただし、この決算公告ですが、(あまり大きな声ではいえませんが)実のところ・・・現在、多くの会社がこの決算公告はしていません(法律違反ではありますが、過料の制裁がなされたというのは聞きません)。
決算公告がされていないのであれば、この公告する機会というのは、「ほとんどない」ということになってしまいます(少なくとも毎年とか定期的に発生するものはありません)。それであれば、公告をする方法なんて神経質に考える必要もないということになります。
(法律違反うんぬんは別にして)多くの会社が決算公告をしていないのに、電子公告を選択してURLを登記した場合、逆に、しなければならない環境におかれてしまう・・・(これをどうとらえるか?)しかも、官報や日刊新聞紙と異なり、5年間、貸借対照表の全部を掲載する必要がある・・・
設立の際は、(とりあえず無難な)官報にしておいて、後で(必要になった場合に)電子公告に変更するか、もしくは、決算公告(貸借対照表の開示)「だけ」電磁的開示にすることもできます(この場合でも5年間、貸借対照表の全部を掲載する必要があるのは同じです)。
公告をする方法を官報(か日刊新聞紙)にしている場合、決算公告(貸借対照表の開示)だけ電磁的開示で公告することが認められています(このURLを登記します)。会社法440条第3項
この貸借対照表の電磁的開示(決算公告)のためのURLの設定
(公告をする方法とは別に)次の登記をする。
「貸借対照表に係る情報の提供を受けるために必要な事項」
http://(略)
設立の際は、発起人が決定
設立後は、代表取締役が決定(登記する場合の添付書類は登記事項が記載された委任状のみ。登録免許税は3万円)
定款や登記で定められた公告をする方法が電子公告の場合は、この決算公告(貸借対照表の開示)だけ電磁的開示はできません(公告をする方法の電子公告ですることになります)。
結局、これらを考慮され、公告をする方法は、電子公告ではなく官報で、ということになりました。
官報にしておいて、後で、必要となった場合に、決算公告(貸借対照表の開示)だけ電磁的開示にしたらいいか(その時に代表取締役で決定して登記する)、という感じです。
まとめ
決算公告を除き、この「公告をする方法」で公告する機会はほとんどない(特に株主が少ない小規模な会社)。
債権者保護手続きでの債権者あて公告は、(定款で定め)登記する「公告をする方法」とは関係なく必ず「官報」になる。
公告をする方法を官報か日刊新聞紙にしている場合、それとは別に、決算公告だけ電磁的開示の方法ですることが認められている(公告をする方法を電子公告にした場合は、この決算公告だけ電磁的開示の方法は取れなくなる)。
決算公告を、電子公告や電磁的開示でした場合、貸借対照表の全部を5年間公告しなければならない(官報や日刊新聞紙の場合は、1回、要旨の掲載で足りる)。決算公告については、電子公告や電磁的開示でした場合でも、その期間掲載されていたかどうかを調査会社(電子公告調査機関)にチェックしてもらう必要はない(決算公告を除き、必要があって電子公告した場合、調査会社(電子公告調査機関)のチェックは必要)。
追
資本金減少(減資)、合併、分割、解散などで、債権者保護手続きをする場合(債権者あて)として「官報」での公告が必要となりますが(公告をする方法が電子公告や日刊新聞紙になっていても必ず官報公告が必要になります)、その公告のなかで(解散公告を除き)計算書類に関する事項(貸借対照表)を記載する必要があります。きちんと毎年、決算公告(貸借対照表を公告)をしている会社であれば、それがどこに記載されているかを載せれば足りますが、決算公告をしていない会社であれば、同時に最終の貸借対照表の要旨を載せることになります。ほとんどの会社が決算公告をしていませんので、同時に貸借対照表の要旨を載せることになります(同時公告)。会社の公告をする方法(株主あて公告)が官報になっている場合は、この官報への貸借対照表の同時掲載で、決算公告をしたことになりますが、そうではなく電子公告になっている場合は、あらためて貸借対照表の公告を電子公告でしないと決算公告したことにはなりません。
債権者保護手続きで、官報公告にプラスして知れたる債権者には個別催告が必要となりますが、公告をする方法を電子公告にしていた場合、官報公告と、この電子公告もした場合は(二重公告、ダブル公告)、この個別催告を省略することができます(公告をする方法を官報にしていた場合はこれができません)。ただし、知れたる債権者が明確で少数の場合は、個別催告すればよいので、この辺はあまり考慮する必要はないかと思います。