司法書士とくの日記(ブログ)

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改正民事執行法

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夜、寝られず、久しぶりに筋トレをしたところ、

ひどい筋肉痛になりました。

 

これを書いているとき、志村けんさんの訃報を知りました。

びっくりしました。

ご冥福をお祈りいたします。

 

無症状ですんでいる方がいる一方で、

亡くなられる方もおられ、

この新型コロナウイルスって「どうなっているの?!」という感じです。

 

先日、新型コロナウイルスの感染者がでた病院を、

登記申請の本人・意思確認のため、訪問しました。

落ち着かず、いろいろ気を使います。

 

さて、話はまったく変わりますが、

 

破産申立をして免責を得た方

 

この方、破産申立する前、

ある貸金業者に借金があり「給与の差押え」を受けていました(貸金を滞納、裁判をされ判決をとられ、それでも払えないので給与差押えの強制執行をされていました)。

他にも(返済できていない)借金はありましたが、給与の差押えを受けているのはこの貸金業者からだけでした。

 

(この方の勤務先は、小さな個人営業のお店で、

給与の経理等はそんなにきちんとはされておらず、源泉、社会保険等の控除はありません)

給与額は月10万円ぴったりで、差押分25,000円差引かれて、月手取り75,000円です。

差押分の月25,000円は勤務先から差押えをした貸金業者へ支払いされていました。

 

給与については、

その人の生活になくてはならないものなので、民事執行法で一律に(原則)4分の3が差押え禁止になっています。

(なお、この例のような貸金債権ではなく、養育費なんかの請求債権による差押えの場合は、差押禁止部分は4分の3ではなく、2分の1になっています)

破産申立をして、破産決定(同時廃止)が出るまで、

月の給与10万円の4分の1が差押えられて(4分の3が差押え禁止なので、4分の1が差押えられている)、月手取り75,000円で、2年ぐらい生活されていました(他に収入はありません)。

自宅の家賃が月45,000円でしたので、なんと、残り月30,000円での生活になっていました。

電気ガス水道はできる限り使わず、食費をぎりぎりまで切り詰めた極貧生活をされていました。

(勤務先でまかないがあったのでなんとか生活できていましたが、生活保護基準以下の生活で、とても健康で文化的な最低限の生活とは言えない状態でした)

 

このように給与の4分の1が差押えられてしまうと、憲法で保障されている最低生活ができなくなる場合があることを考え、債務者側にも、別途、裁判所に対して、差押えられている部分を減らしてもらうよう主張(申立)することができる、差押範囲変更(減縮)申立という手続が用意されています。

これは、差押命令を出した裁判所に、証拠とともに家計収支を示し、このような差押えがされると生活ができなくなるというのを主張、説明して、差押の範囲を減縮もしくは「なし」にしてほしいと申立てをするものです。これが認められると、4分の1差押えが減縮されたり(一部取消)、「なし」(全部取消)になったりします。

 

この方は、もしかしたら、この手続きをきちんとしておけば、給与差押部分を減縮、もしくは「なし」にできていたかもしれません。

 

しかし、この手続き自体、あまり知られておらず、また、弁護士などの専門家に相談することも少ないようで、ほとんどなされていないのが現状でした。この方も、していませんでした。

 

令和2年4月1日から施行される改正民事執行法では、裁判所が、この手続き(差押範囲変更(減縮)申立)を、差押えの際に教示することになりました。教示というのは、「このような手続きがありますから、必要であればしてください」と案内することです。実際は、差押え命令といっしょに、この手続きの「案内文」が同封されるようになります。

これで、当てはまる人の申立て(機会)の増加が期待されます。

また、「給与を差し押さえた場合」ですが、債権者が取立て(この事例でいえば、債務者の勤務先に対して、給与から差押え分の月25,000円の支払いを請求すること)のできる時期が、差押命令が債務者に送達されてから「1週間」であったのが、「4週間」に延長されており、時間的に差押範囲変更(減縮)申立がし易くなっています。1週間というと、その間に専門家に相談をして申立の準備をするというのはかなり厳しいものがありますが、4週間というとまだ可能かと思います。

ただし、貸金ではなく、養育費なんかの場合は速やかに実現(執行)する必要があるということで、原則通りの1週間のままです。

また、差押えらたものが給与ではなく、預金口座などの場合は、原則通り1週間のままです。

差押範囲変更の申立(生活保護費等の入金口座が差押) - 司法書士とくの日記(ブログ)

(債務名義をもっている)債権者が、債務者の給与を差押える場合、債権者に債務者の勤務先が判明していることが必要です。勤務先が判らなければ差押えることはできません。

この方の場合、裁判された際に、債権者の貸金業者に勤務先を言ってしまっていたようです。

破産申立(同時廃止)と強制執行(債権差押など) - 司法書士とくの日記(ブログ)

 

債権者側からすれば、勤務先を調査することが重要になってきます。

 

令和2年4月1日から施行される改正民事執行法では、前からあった①「債務者の財産開示手続」(債務者本人に直接、財産開示を請求する手続)を拡充させ、また、あらたに②「第三者からの情報取得手続」が定められました。

①「債務者の財産開示手続」(債務者に直接、財産開示を請求する手続)の拡充については、例えば、債務名義が公正証書(執行証書)ではできなかったのが、できるようになり(金銭債権についての強制執行を申立てをするのに必要とされる債務名義であれば種類を問わず可能)、また、財産開示をしない場合の罰則が強化されています。

②「第三者からの情報取得手続」

①に加え、債務者の財産に関する情報(預貯金口座等、不動産、勤務先(給与に関する情報))の開示を、(第三者の)金融機関や公的機関に対して裁判所を通じて求めることができるようになります。債務者の勤務先の情報(給与に関する情報)については、市町村や日本年金機構等へ求めることができます。

ただし、給与というものは債務者の生活に影響が大きいものなので、この市町村や日本年金機構等への給与に関する情報の取得手続ができる場合は限定されており、事例のような貸金債権では利用できず、扶養義務等に係る請求権(養育費や婚姻費用の支払請求権等)や、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権なんかの場合に限られています(さらに、あらかじめ①の債務者の財産開示手続が必要)。

例えば、公正証書(執行証書)で定められている養育費の滞納がある場合、債務者(相手方、養育費の支払義務者)の財産状況が判らず、差押(財産の強制執行)できない場合でも、裁判所へ債務者の財産開示手続きをし、それでもダメな場合、裁判所を通じて、市町村や日本年金機構等から給与に関する情報を取得し、債務者の勤務先を調べて、給与の差押えをすることができます。また、給与ではなく、預金口座を差押える場合で、その預金口座が判らない場合、裁判所を通じて金融機関から情報を取得し、預金口座を調べて、預金の差押えをすることができます(この場合は貸金債権でも利用できます。また、あらかじめの債務者の財産開示手続は不要です。預金の場合は財産隠しが容易にできてしまう。あらかじめ債務者へ財産開示請求なんてしていると、預金を引き出されてしまうリスクがあるからです)。

なお、これらの手続きを利用するには、すでに知れている財産では完全な弁済を得ることができないことの疎明が必要なっています。

 

養育費の請求の場合は、債務者の給与を押さえるのが一番効果があると思われます(差押え禁止が4分の3ではなく、2分の1になっている。期限が到来していない将来の養育費も対象。継続的で、勤務先との関係で心理的プレッシャーがあるなど)。

養育費は(実現する必要性が高いので)、貸金債権などと比べ、強制執行がやり易くなっているといえます。

ただし、債務者が上記の破産の方のような状況の場合(債務者の貧困問題)など、これらの手続きをした結果が、あきらめの材料にしかならなかったという場合もあります・・・

 

以上

借金がもとで、給与差押えられた方の話から、

~養育費請求の話で終わります。

 

なお、財産開示手続(民事執行法第196条に規定する財産開示手続)は、令和2年4月1日から施行の改正民法で、時効の完成猶予・更新事由となっています(新民法148条で明文化)。