司法書士とくの日記(ブログ)

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被相続人との同一性(1)


不動産の相続登記
(相続対象の不動産の登記名義人と
被相続人との同一性の証明)


不動産の相続を原因とする所有権移転登記の際、
その不動産の所有権登記名義人の住所(登記簿上の住所)
と、
被相続人の最後の住所(除票や戸籍の附票に記載)
もしくは本籍
が一致しない場合がある。


所有権の登記をしたときから、
住所移転等により住所が変わっているためである。
(住所変更登記がなされていない)


この場合、所有権登記名義人と
被相続人の住所が相違しているため、その同一性を
証明する必要が生じる。


被相続人の除票の前住所や、
戸籍の附票(改製前のものなども取得)で、
登記簿上の住所が出てくれば、それで証明ができる。
(除票については本籍の記載要)


しかし、この除票や戸籍の附票(除附票となっているもの)については、
5年で廃棄処分してもかまわないことになっているため、
5年を超えている場合、役所によっては廃棄したとして発行されないことがある。
転々と住所移転している場合は、登記簿上の住所が記載されていたであろう
古い除票や戸籍の附票は5年の経過で廃棄したとして発行されないことがある。
死亡して長年経過している場合、被相続人の最後の住所すら証明できない場合
がある。


このように所有権登記名義人と被相続人の同一性が証明できない場合、
その不動産につき相続登記ができないということになってしまう。


それではどうするか。


まず、相続人全員から
「当該不動産の所有権登記名義人と被相続人は同一人物に相違ありません」という
上申書(相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を添付する)のかたちで証明する方法があります。
しかし、この相続人全員の上申書を取得することが困難な場合もあります。


同じように実務上、上申書が求められていたもので、
戸籍が滅失等により交付できない場合(「他に相続人はない」旨の上申書で対応)
があるが、
これは、平成28年3月11日法務省民二第219号通達で、
「相続人全員による上申書を提供することが困難な事案が増えていること」を鑑み、
除籍等の謄本を交付することができない旨の市町村長の証明書が
提供されていれば上申書がなくても相続登記をしても差支えない
と変わっています(緩和された)。
しかし、被相続人との同一性については、このような通達は出されていません。


あと、実務上、
固定資産税の納税通知書(課税明細付)を添付する。
不動産の権利証書(所有権の登記済証)を添付する。
不在籍不在住証明書(登記簿上の所有者について)を添付する。
というのがあります。


実務上は、相続人全員の上申書にプラスして、
もう1点、固定資産税の納税通知書(課税明細付)か、
不動産の権利証書(所有権の登記済証)か、
それらがない場合、不在籍不在住証明書を添付する。
ということが多かったと思います。


最近、
平成29年3月7日不登第51号照会で、
不動産の権利証書(所有権の登記済証)を添付すれば、
他の書類は不要という回答がなされています。
(平成29年3月23日法務省民二第174号)


相続人全員の上申書がなくても、
不動産の権利証書(所有権の登記済証)があればOK
ということです。


しかし、不動産の権利証書(所有権の登記済証)がない場合
(ないケースは多いです)、
やはり、相続人全員の上申書が必ず必要なのかどうかははっきりしません。


不動産の権利証書(所有権の登記済証)がない場合の
補完として、
(今となっては昔の)旧不動産登記法で規定されていた
保証書(成年者2名が間違いない旨の保証をする)の作成を
求められるということもありましたが、
これは今となっては制度自体がないですし、
このケースでは法律等の根拠がまったくありませんので、
現在は、実務上ないのではないかと思います。


相続人全員の上申書の取得が困難で、
不動産の権利証書(所有権の登記済証)もない場合、
固定資産税の納税通知書(課税明細付)
もしくは、不在籍不在住証明書の添付だけでいけるのかどうか?


これは今まで経験がないのでわかりませんが、
不在籍不在住証明書(消極証明)のみではダメ思いますが、
不在籍不在住証明書と比べると、
固定資産税の納税通知書(課税明細付)の方が
証明力はあると思いますので、
相続人全員の上申書の取得が困難な事情によっては、
固定資産税の納税通知書(課税明細付)の添付のみ
(もしくは固定資産税の納税通知書(課税明細付)+不在籍不在住証明書)で
いけるのではないかと思っています。
(評価証明書や名寄帳に被相続人の最後の住所と氏名が記載されている場合が
あるので、これでもいけるのではないかと思います。)
この辺は、法務局と相談となります。


ただし、
遺産分割協議書がある場合
(個人的な意見として)
遺産分割協議書があれば、そこには相続人全員の実印が押してあり、
不動産の記載もあり、内容として上申書と同様な意味合いは
あるので、別途上申書は不要なのではないかと思いますが、
どうでしょうか?


このようなことがあるので、
当方で作成する遺産分割協議書は、
「当該不動産の所有権登記名義人と被相続人は同一人物に相違ありません」という
文言は必ず入れるようにしています。


追(まとめ)
被相続人の戸籍、除票や戸籍の附票で同一性が証明できない場合


不動産の権利証書(所有権の登記済証)のみ OK
(平成29年3月23日法務省民二第174号)


相続人全員の上申書
+固定資産税の納税通知書(課税明細付)OK


相続人全員の上申書
+不在籍不在住証明書(登記簿上の所有者について)OKと思う


相続人全員の上申書のみ △
(もう1点何かつけてほしいと言われたことがある)
(上申書のみでいけたこともある)
(相続人が1名か複数かで証明力に相違があるのか?)


固定資産税の納税通知書(課税明細付)のみ △
固定資産税の納税通知書(課税明細付)+不在籍不在住証明書 △
不在籍不在住証明書(登記簿上の所有者について)のみ ×
(不在籍不在住証明は消極証明で証明力は非常に弱い。気休めのような) 
相続人全員の上申書を添付できない事情によるか?
(最後の住所は証明できている場合)
被相続人の最後の住所氏名が記載された評価証明書や名寄帳はどうか?
法務局と相談になる。


追追
被相続人との同一性(2)
http://d.hatena.ne.jp/tokucyan-siho/20170515