司法書士とくの日記(ブログ)

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司法書士の悲哀

不動産取引(登記)


(住所移転・引越しはしていないが)
市町村合併などで
行政区画の変更がなされ、
不動産所有者の
住所の表記が異なるケースが多くなっている。


例えばこんな感じ


所有者の登記簿上の住所
多紀郡篠山町河原町1番地」
現在の印鑑証明書・住民票上の住所
篠山市河原町1番地」


所有者の登記簿上の住所
「養父郡関宮町関宮1番地」
現在の印鑑証明書・住民票上の住所
養父市関宮1番地」


所有者の登記簿上の住所
堺市○○町四丁1番1号」
現在の印鑑証明書・住民票上の住所
堺市南区○○町四丁1番1号」


このような場合
売買などで所有権移転登記するとき、
その前提として所有者(売主など)の
住所の変更登記をする必要があるのかどうか。


不動産登記法の前は、
変更したるものとみなすという
「みなし規定」があったので
当然、不要であったが、
不動産登記法では、なぜか、
その「みなし規定」が権利の登記
のところではなくなってしまったので、
住所変更登記が要るのか要らないのか、
いろいろ議論されていた。
これは司法書士の間では
非常に「重要な問題」として議論されていたのである。


一見、
行政区画の変更に伴う住所の変更登記申請が
要るのか要らないのかなんて
「どうでもいいようなこと」
「どちらでもいいんじゃないの」
と思えるようなことだが、司法書士にとっては
命にかかわるほど重要な問題になっていたのである。


理由は次の実務慣行にある。
住宅ローンを組んで家を買うような
銀行融資がからむ不動産取引については、
実務上、司法書士に対して
取引当日の登記申請が義務づけられている。
登記が、取引当日の受付年月日になっている
必要がある。
融資を実行したその日に法務局へ登記を持ち込む。
融資実行日と、住宅ローン担保の抵当権設定の
登記日は同じでなければならない。
これは抵当権設定登記の前に
他の差押などの登記が入るのを防ぐという
銀行側の要請である。


そこで、
この行政区画の変更の住所変更登記をせずに
申請したところ、
「実は必要であった」となると、
(補正はできず)
取下げをして申請し直さなければならないため、
取引当日の申請とはならず、
(たとえ何の問題もなく登記ができたとしても)
銀行からはクレームがつき、
今後の登記依頼はなくなってしまう(かも)。
仕事半減(かも)、という司法書士にとっては
怖い状況を予想させるものとなるのである。


したがって、
住所変更登記の要否は司法書士にとって
重要な問題で、「名変こければすべてこける」
という言葉があり(これは補正できないという意味)、
また、「たかが名変、されど名変」(兵庫県青年司法書士会)
という名著も生まれている。
*名変=所有権登記名義人住所変更登記


しかし、
私は、
この取引当日に登記を持ち込むという
銀行側からの実務要請については、
司法書士があまりにも生真面目に
考えすぎているのではないかと思う。
取引の安全を考えればできるだけ
そうしたほうがいい(早く申請したほうがいい)
と思うが、
これにとらわれ神経をすり減らし、
多くの司法書士が寿命を縮めているのでは
ないかと危惧する。
この呪縛から逃れるすべはないのか。
http://d.hatena.ne.jp/tokucyan-siho/20090116


経験として、
私が補助者をしていたころ、
銀行融資がらみで取引当日に登記申請
できなかったケースがあるが、
その後、その銀行の仕事が減ったとか
いうことはない。
(ただし、本職の司法書士の先生は
速攻で銀行へ謝りに行き、私は、こっぴどく、
くびか?と思われるぐらい怒られたが・・・)
http://d.hatena.ne.jp/tokucyan-siho/20080414



結論としては、この住所変更登記は
「公知の事実」で「住所が登記記録と合致しない
に該当しない」として不要となっている。

住所変更登記で行政区画変更が最後のケース - 司法書士とくの日記(ブログ)