司法書士とくの日記(ブログ)

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争点

過払金返還請求につき、現在、争点となりうる
ものとして以下のものがある。


1、悪意の受益者として過払金に年5%の利息を
付すことができるかどうか。
これについては、「悪意を推定する」という最高裁判例があり、
請求する側に有利であり、また、次の2や3と異なり、過払い元本
に大きく影響するものではない(ただし、この利息を、その後の
借入金に充当する計算では、過払い元本が変わってくる)。
貸金業者側が、善意であるという「特段の事情」を主張・立証できる
かどうか。


2、別々の基本契約がある場合(完済した後、あらためて
契約を結び借入をしている場合)、これを一連一体の取引として
引き直し計算ができるかどうか(完済時の過払い金を後の
借入金に充当できるか)。
http://www.amy.hi-ho.ne.jp/sakai-siho/itirenkeisankahi.htm
これは過払い額そのものに影響し、また、次の3の消滅時効との
関係で、もし一連一体が否定され、前の取引の過払い金につき、
10年経過による時効消滅を主張された場合、大きな問題となる。


過払い金が発生した時点で、充当する債務がなく、
その後、発生した債務に充当できるのかどうか。
これは最高裁は当然には充当されないと言う。
でも、「充当の合意」があれば、充当できると言う。
この「充当の合意」というのがむずかしくて理解できない。
当事者(少なくとも借入している一般消費者等)は、
過払い金の存在すらわからないのであるから、合意というのは
ありえない。「黙示の合意」「合理的意思」の範疇という
ことになるか。基本契約があり、借入返済を繰り返す継続的な
取引中であれば、その合意はあるのだと言う。
また、それと同視できるような取引であれば、合意の存在を
認定できるという。
これは、過払金発生当時に存在する債務には当然充当(法定充当)
できるが、そうでない場合は、法の規定からできないといわざるを得ない。
しかし、それでは利息制限法違反・公平性の観点から妥当ではないから、
「充当の合意」を擬制して、充当できるとしているのであろうか。
そうした結果、基本契約の存在、契約が二つ以上でも、一連一体
と認定できる事実関係を主張・立証しなければならなくなった。


3、消滅時効の問題。
取引が相当昔からある人はこれが問題となる。
消滅時効の起算点が問題となる。
取引終了時説と過払金発生ごと説がある。


取引終了時説。
基本契約に基づき継続的に取引をしている場合
(一連一体の取引とみることができる場合含む)、
借入返済が繰り返されるため、過払額が特定されず
(返済により過払金が増え、借入充当により過払い金が減る)、
また、そのような取引の場合、取引終了前に過払金の返還を求める
ことは現実には期待できない。
(過払金の返還を取引終了まで猶予する意思あり。
借入枠の利用ができる立場を捨ててまで、過払金の返還請求するのは
困難であり、これは法律上の障害と同視できる。)
一連一体の取引、充当合意のもとでは、過払金返還請求が可能となるのは
取引が終了し、過払金額が確定した時である。
(平成20年2月27日名古屋高裁、平成20年6月26日広島高裁、など)


過払金発生ごと説(貸金業者側が主張)。
(平成19年9月5日広島高裁松江支部
ただし、過払金発生ごと消滅時効が進行すると言っても、
その後の借入により、充当されるため、借入するたび、
過払金返還請求権全体につき、時効が中断していると考えられる
(この場合は、最終の借入日が起算点となる。最終借入日説)。
また、仮に、全体に中断が考えられないとしても、その後の借入充当により、
消滅した過払金については、消滅時効を考える余地はない。


起算点の明確性から言うと、取引終了時説や最終借入日説がよいように思う。
過払金の発生といっても、その時期は、正確な取引履歴の再現ができない場合や
計算方法などで変わってくる。
なお、平成19年9月5日の広島高裁松江支部の判決(松江は懐かしいが、
嫌な判決)は、訴え提起(平成18年7月26日)の10年前である
平成8年7月26日以降の弁済額全額及びそれに対する年5%
の利息を認めており、最高裁に上告されたが、上告受理されず、
最高裁の判断はなされなかった。


その他、これに相殺の問題をからめると複雑になる。
相殺の対象となるものが、返済や借入で発生・消滅しているから。