司法書士とくの日記(ブログ)

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ある懲戒事例

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毎月、司法書士会から届く「月報司法書士」にすこし気になる司法書士の懲戒事例がありました。

 

(当方での要約)

司法書士(今回、懲戒を受けた司法書士)は、ある行政書士から、合同会社の設立登記の依頼を受け、その必要な書類一式を受け取った。

司法書士は、申請人本人である会社の代表者となる者に対して、本人確認のため電話をしたが、住所、氏名、生年月日の確認と、登記申請させてもらう旨の案内だけで、具体的な登記内容(あなたが代表者となる合同会社の設立登記)の説明はしなかった。司法書士の「登記申請させていただきますね」に対して「はい」と答えた。

そして、実はこの代表者となる者は、合同会社の設立や自分が代表者になることの認識がなかった(おそらく、そういうことだと思われる)。そして、実体のない会社の設立登記がなされた。

合同会社設立後、(1年以上経過して)その代表者に税務署、社会保険事務所等から通知が来るようになって、(会社の代表者になっているなんて身に覚えがないので)司法書士会に相談した。

司法書士は、代表者となる者に謝り、和解金を支払(費用弁償)、解散・清算結了の登記をして会社をなくして(閉鎖させて)被害を償った。

しかし、司法書士は、本人確認や申請意思確認を怠ったということで、1週間の業務停止処分を受けた。・・・

 

まず、裏の事情は何も書かれていないのでよくわからないところがあります(すっきりしないところがたくさんあります)。

 

1、この実体のない(架空の)合同会社設立を進めていた黒幕(悪い奴)は誰なのか?

何も知らない(と思われる)人物を代表者として、その者から名義だけを借り、架空の会社設立を企てた者(一番悪い黒幕)がいるのだが、この辺の事情は判らない。

この一番悪い黒幕は依頼をした行政書士なのか、この行政書士をも騙した黒幕が別にいるのか?

また、設立の登録免許税などの費用は誰が支払っていたのか?

行政書士に設立を依頼したけれども、登記する段階には設立する意思はなくなっていた、というような単純な事案ではないように思われるのだけれど・・・?)

 

2、 代表者となる者の認識、立場が分らない?

司法書士から電話があり、「登記申請しますね」と言われ、「はい」と答えている。

合同会社設立の書類一式の中には、その者の印鑑証明書や、実印が押された書類(印鑑届出書)があったはずで、印鑑証明書を提出しており、実印を押している(資本金の出資の書類はどのようなものであったか?もし通帳合綴式であれば他に社員がいない場合は預金口座も提供していることになる)、しかも司法書士から電話があって、「はい」と答えているということで、本当に合同会社設立の意思がなかったのかどうか?司法書士から電話があった時点で普通は「何?」と思うだろう、(どのような立場だったのか)誰かから頼まれて?名義を貸しているような形だが、ある程度は(すこしぐらいは)認識があったのではないか?もし、電話した時に、司法書士が「あなたを代表者とする合同会社の設立登記申請をしますね」とまで言っていたらどうなっていたか?もう少しつっこんで話をしていたら司法書士は「変だな?」と感づいたかもしれません。

 

3、本人確認

(電話という手段が適切だったかどうかは別にして)司法書士は、「代表者となる者と電話で話をした」と認定されています。そこで、具体的な登記内容の話をしなかったことが悔やまれます。

実際、会社設立する場合、その必要性や、本店をどこにするか、目的をどうするか、出資をどうするか、など一つ一つ検討して進めていくので、行政書士が関与して、すでに書類が揃っているというのは、通常、その辺の検討は終わっているということだから、登記する段階では、(書類のチェックはもちろんしますが)合同会社の細かい内容までは代表者の申請人に対して確認はしないと思います。

電話以外に、委任状だけは別途その人の住所に送って押印してもらうとか、電話する場合でも、住所・氏名・生年月日以外に、何か聞くこと(事後謄本や会社の印鑑証明書の取得通数の確認や、完了後の書類はどうするかなど)を用意しておけばよかった。登記申請日が設立日になるから、それの確認ぐらいはしたらよかったのにと思われる。

 

4、行政書士

この行政書士も誰か(黒幕)から騙されたのか?

この行政書士自身が黒幕なのか?

知らない一見の行政書士の先生の場合は(深く)注意をした方がよいと思った。

おそらく、書類は、この行政書士の先生が作成したのだろうと思われるが、資本金の出資の書類はどのようなものだったか?何か変と感じる書類はなかったのか?

合同会社は定款について公証人の認証が不要で、社員=代表者(代表社員)となる者の印鑑証明書の提出、実印の押印がなくても、(やろうと思えば)行政書士電子署名だけで定款ができてしまう(司法書士でも同じですが)、というところは一応注意が必要か。

設立登記完了後は、多くの場合、司法書士の方で、会社の謄本(証明書)を取得、会社の印鑑カードの交付を受け会社の印鑑証明書を取得して依頼者に渡します。この辺はどうだったのか?行政書士に渡したのか?行政書士の方ではどのようにされたのか?(設立後1年以上経ってから)税務署、社会保険事務所等から通知が来るようになって相談って、・・・その間、本当にまったく認識がなかったのか?やはり会社利用の黒幕がいたのか?

行政書士は、登記のため司法書士にはつなげたが、設立後の各種届出・手続の案内はしたのか?税理士や社会保険労務士にはつなげなかった)

サービストップ | 法人設立ワンストップサービス

 

この実体のない(架空の)会社の利用による被害が出たのかどうかはわかりませんが、実体のない会社がつくられたということ自体の被害は、この司法書士がすべて償っています(費用にしろ、解散、清算結了の手続にしろ)。むしろ、この司法書士が害のすべてを被ったとも見ることができます。

 

司法書士は登記については受任義務があるとされていますが、「あやしい」「なんとなくやりたくない事案」は何かと理由をつけて断った方がよい、また、こちらが神経質に(異常に)細かいところまで確認するなど、しっかりしていると、変な案件は持ち込まれないか、持ち込まれても自然となくなります。注意すべきは他の士業の先生からの案件です・・・(まあ、このような事案は千に一つあるかどうかだとは思いますが)