司法書士とくの日記(ブログ)

司法書士業務、マラソン、その他

抵当権抹消登記と所有権移転登記の連件の順番

すこし涼しくなってきたので、

走りやすくなりました。

暑いと本当に走れませんね。

暑いときは6キロ走るのにも途中ばてて歩きが入っていましたが、涼しくなると調子こいて15キロ走りました(急に距離を延ばしたので脚に痛みが生じましたが・・・)。

 

さて、

離婚の際、夫名義の自宅を、妻へ財産分与するということがあります。

この財産分与を原因としてする妻への所有権移転登記(妻への名義変更)ですが、

司法書士に依頼しなくてもできるように)法務局のサイトに申請書等の雛形がでています。

 

不動産登記の申請書様式について:法務局

 

その雛形は、(とても親切で)登記申請の権限を夫(義務者)から妻(権利者)に委任をして、妻だけで登記申請できるようなものになっています。

こういう形でしたいというケース(相談)が多いからだと思います。

夫が申請書、登記原因証明情報、妻への委任状を作成、印鑑証明書と権利証書(登記済証、登記識別情報通知書)といっしょに妻へ提供して、後は妻の方でやってね、という感じです。

ただし、いろいろ細かいところなど配慮しないといけないところはあって、実際は、法務局で相談しながらでないとできないとは思います。

 

今回、

財産分与の対象の自宅(不動産)に住宅ローンの抵当権登記が設定されていて、財産分与による所有権移転登記といっしょに、その抵当権抹消登記も申請するケース

 

離婚に際して、妻へ財産分与をしたが、住宅ローンの抵当権登記が設定されていたので、財産分与による所有権移転登記は保留にしており、離婚後、しばらくしてから、夫(前夫)が住宅ローンを完済したので、その抵当権抹消登記といっしょに財産分与による所有権移転登記をすることになりました。

 

財産分与の原因日付は、財産分与の協議成立日・合意日(離婚届出がその後の場合は、離婚届出日・離婚日)になります。

これが令和1年7月1日

 

抵当権抹消登記の原因日付は、住宅ローンの完済日になります。

これが令和1年9月1日

 

妻から、この抵当権抹消登記と所有権移転登記(財産分与)の依頼を受けました。

所有権移転登記(財産分与)の方は、前夫が法務局で相談して作成したか、(上記法務局の雛形とおりで)妻だけで登記できるように書類が整っています。

抵当権抹消登記の方は、金融機関から交付を受けた抵当権抹消登記の書類があります。

 

登記の順番を考えると、

登記原因の日付の順とおりでいくと、

1、所有権移転登記(原因日付 令和1年7月1日財産分与)夫から妻へ

2、抵当権抹消登記(原因日付 令和1年9月1日弁済)

で申請することになり、また、この場合、2の抵当権抹消登記の権利者は妻になるので、妻から抵当権抹消登記の委任状をもらえば良いということになります。

 

・・・しかし、金融機関から交付を受けた抵当権抹消登記に必要な書類は、登記原因証明情報、委任状の記載が(金融機関は妻に移転されていることは知らないので)相手方は夫になっています。また、この抵当権設定登記は登記識別情報不発行・不通知になっていて、事前通知の手続きですることになっています(金融機関の印鑑証明書があり、委任状に実印押印があります)。事前通知の場合、法務局から金融機関への通知に申請人が記載されますが、そこに金融機関の把握していない妻の名があった場合、金融機関の方で「?」となるのではないか。妻は、ローン完済・抵当権抹消の方は夫にまかせており、自分が関与しないといけないの?という感じでもある。

(事前通知=登記済証や登記識別情報が紛失、失念等で添付できないとき、登記申請をすると、法務局から登記義務者(今回、金融機関)へ「このような登記が申請されていますが間違いないですか」という通知(事前通知)がなされ(本人限定受取郵便、法人あての場合は書留郵便にて通知)、登記義務者が、間違いないということで、その書類に実印を押印し法務局へ提出すると登記が完了する)

(事前通知の場合、抵当権抹消登記でも印鑑証明書が必要で、申請書の添付書類欄に、その記載を失念してしまうことがあります(^-^;)

 

そこで、登記の順番を逆にして、

1、抵当権抹消登記(原因日付 令和1年9月1日)

2、所有権移転登記(原因日付 令和1年7月1日)夫から妻へ

とできないかと考えました。

ただ、1の抵当権抹消登記の権利者は夫になると思われるので、夫から抵当権抹消登記の委任状をもらう必要があります。また、今回のような財産分与ではなく、所有者につき相続が先に生じている事例の場合、相続登記をしてからでないと抵当権抹消登記ができないとなっている関係から、この順ではできないのではないか?という危惧がありました。

調べた結果

末尾の質疑応答(登記研究514号)があり、(できそうなので)夫から委任状をもらい、

1、抵当権抹消登記(原因日付 令和1年9月1日)

2、所有権移転登記(原因日付 令和1年7月1日)夫から妻へ

の順で登記申請をしました。

 

事前通知なのですこし時間がかかりましたが、 

これで問題なく登記は完了しました。

これは、抵当権抹消登記によって形式的に利益を受けるのは申請時の所有権登記名義人なので、抵当権抹消登記の権利者は(実体上の所有者でなく)申請時の所有権登記名義人でよい。実体上の所有者なんて、連件でなければ法務局には判らないし・・・ということだと思う。ただし、所有権登記名義人に相続が生じている場合は、その死亡している所有権登記名義人は権利者になれないので、権利者は、その相続人となるが、抵当権抹消登記の原因日付が相続より後の場合は、きちんと順番どおり相続登記をしてから抵当権抹消登記をしてね、というのと整合性がとれているのかどうかはよくわかりません。

 

登記研究(登記研究514号)

(問)売主甲が抵当権設定登記のある不動産につき、次のとおり当該抵当権を抹消(2分の1)して、買主乙に所有権を移転する登記(2分の2)を連件で申請するとき抵当権抹消登記申請の権利者は、売主甲でよろしいでしょうか。

(2分の1)抵当権抹消登記 原因 平成2年7月31日弁済(又は解除)

(2分の2)所有権移転登記 原因 平成2年4月1日売買

登記申請日 平成2年8月1日申請

(答)御意見のとおりと考えます。

 

ただし、次のようなものもあります。登記研究(登記研究445号)

(問)抵当権抹消及び売買による所有権移転登記を連件にて申請する場合、抹消の原因日付が売買の原因日付より後日の時、申請はいずれによるべきでしょうか。(1)1件目で抵当権抹消登記を権利者売主と義務者にて申請し、2件目にて所有権移転登記を買主と売主にて申請する。(2)1件目で所有権移転登記を申請し、2件目にて買主を権利者とし抵当権抹消登記を申請する。(答)(2)によるべきと考えます。

このように(登記研究445号)登記原因の順番どおりでするのが望ましいが、逆順で登記申請しても(登記研究514号)登記はとおるということか。

 

仮登記(財産分与、住宅ローン) - 司法書士とくの日記(ブログ)