司法書士とくの日記(ブログ)

司法書士業務、マラソン、その他

登録免許税は複雑

司法書士ねた

不動産の所有権移転登記

原因が「共有物分割」(共有関係を解消するための持分移転)の場合、登録免許税は「売買」を原因とするより安くなる・・・

これは正しいかどうか?

 

登録免許税法」には次のように規定されています。

別表第一

一 不動産の登記(不動産の信託の登記を含む。)

(二) 所有権の移転の登記

イ 相続又は法人の合併による移転の登記 不動産の価額 千分の四

ロ 共有物の分割による移転の登記 不動産の価額 千分の四

ハ その他の原因による移転の登記 不動産の価額 千分の二十

 

これだけ見ると、売買の税率は1000分の20、共有物分割の税率は1000分の4で、共有物分割の方が安いということになります。

実際、他の士業の方でそのように思われている(思い込まれている)方がいました。

共有関係を解消するため持分全部移転をするとき、「共有物分割」を原因とする場合が多いですが、代償金の支払がある場合、「売買」を原因とすることも可能です(持分の買取)。

不動産 甲 名義人 共有関係 持分2分の1 A、持分2分の1 B

AからBへ、A持分全部移転で、Bの単独所有とする。その際、BはAに持分代金として〇〇万円を支払う。この場合、共有物分割で代償金を支払う、ともできますし、持分の買取として売買とすることも可能です。登録免許税の点からは税率が低い共有物分割でした方がよい?ということになりますが・・・

 

・・・しかし、別の法律である「登録免許税法施行令」の9条に、登録免許税法の、この共有物分割1000分の4の規定が適用される場合が定められており、それはかなり厳格なものになっています。

登録免許税法施行令9条は複雑な規定になっていて、(そのまま)読んで理解できる人はいないと思います(私も無理でした)。例(典型例)で示すと次のようになります。

 

上記の例で、

まず、不動産の甲を分筆(建物の場合は分棟)して、甲1と甲2にする。

甲1の不動産 共有関係 持分2分の1 A、持分2分の1 B 

甲2の不動産 共有関係 持分2分の1 A、持分2分の1 B

そして、それぞれの不動産について「共有物分割」を原因として持分全部移転で単独所有にする。

甲1については、A持分全部移転で、B単独所有に

甲2については、B持分全部移転で、A単独所有に

このA持分全部移転登記と、B持分全部移転登記は同時に(連件で)申請する。

こういう場合に1000分の4が適用されます。しかも、分筆した面積が均等でない場合、共有物分割前より増加する部分(その部分の価額)については1000分の4にはなりません。

建物なんかは、「分棟して・・・」なんてするケースは(ほぼ)ありませんので、1000分の4が適用されるケースはないと言ってもいいのではないかと思います。

それでは、このように、不動産を分筆(建物の場合は分棟)して、それぞれの不動産について移転登記をするのではない場合は、どうなるか?

 

共有物分割を原因とする場合でも、登録免許税は、1000分の20になります。売買と同じ税率になります。

 

共有物分割は、原則(登録免許税法では)1000分の4だけれど、それが適用される場面が限定されているため、売買と同じ1000分の20になることは多いです。

 

実は、この「登録免許税法施行令9条」は後で定められたもので、次のような脱法行為があったため定められました。

不動産をAからBへ売買したが、共有物分割を原因として登記すると登録免許税を安くできるため、まず、AからBへ(売買を原因として)持分1000分の1を移転して共有関係にしておいて、その後、残りのA持分1000分の999をBへ共有物分割を原因として移転登記する(1000分の999については安くできる)、ということがなされていました。このような脱法行為を防ぐために「登録免許税法施行令9条」が定められた経緯があります。

 

それでは、「売買」の登録免許税の税率はすべて1000分の20かというと、

また、別途「租税特別措置法」という法律で、期間限定ではありますが(ただし延長を繰り返しています)、「土地」の「売買」については、1000分の15となっています(租税特別措置法72条)。

ですから、土地については、共有物分割で1000分の4が適用されないケースでいうと、売買の方が税率は低くなります。

さらに建物については、別途「租税特別措置法」で、住宅用家屋の要件に当てはまれば売買の場合、さらに税率は低くなります(租税特別措置法72条の2~)。

(なお、住宅用家屋の減税は、「売買」「競落」のみで共有物分割には適用はありません)

よって、「売買」より「共有物分割」を原因とする方が登録免許税が高くなる場合がある、ということになります。

 

このように、登録免許税については、登録免許税法だけ見ていても判らず、登録免許税法施行令や、租税特別措置法など、別の法律を確認しないと判らないようになっていてとても複雑です。

 

会社登記の登録免許税 - 司法書士とくの日記(ブログ)

判決等による登記(共有物分割) - 司法書士とくの日記(ブログ)

共有物分割の登録免許税 - 司法書士とくの日記(ブログ)

仮登記の本登記(登録免許税) - 司法書士とくの日記(ブログ)

 

(共有物の分割による移転登記等の場合の課税標準
第九条 共有物である土地の所有権の移転の登記において法第十七条第一項又は別表第一第一号(二)ロ若しくは(十二)ロ(2)の規定の適用がある場合におけるその共有物について有していた所有権の持分に応じた価額に対応する部分は、当該共有物の分割による所有権の持分の移転の登記に係る土地(以下この項において「対象土地」という。)につき当該登記(以下この項において「対象登記」という。)の直前に分筆による登記事項の変更の登記(以下この項において「分筆登記」という。)がされている場合であつて当該対象登記が当該分筆登記に係る他の土地の全部又は一部の所有権の持分の移転の登記(当該共有物の分割によるものに限る。以下この項において「他の持分移転登記」という。)と同時に申請されたときの当該対象土地の所有権の持分の移転に係る土地の価額のうち当該他の持分移転登記において減少する当該他の土地の所有権の持分の価額に応じた当該対象土地の持分の価額に対応する部分とする。
2 前項の規定は、共有物である建物の所有権又は共有に係る地上権、永小作権、賃借権若しくは採石権の分割の登記を行う場合について準用する