司法書士とくの日記(ブログ)

司法書士業務、マラソン、その他

何もできない(しない)

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<一事例> 

ある方、山田太郎氏(66歳)

路上で倒れているところを発見され、病院へ救急搬送

(倒れた際、頭を打っており)高次脳機能障害により意思疎通が困難

持ち物から、住所、氏名、勤務先は判明

関わることができる親族がいないため、市長申立により、成年後見人に就任

収入、財産の調査

財産はほどんどなく、わずかな年金収入のみなので、生活保護申請

生活保護を受けるようになる

 

負債の調査をどうする?→自宅調査、ご本人の郵便物、通帳の調査により判明することが多い

負債の調査→生活保護を受けるまでの多額の入院費、滞納家賃、プラス消費者金融からの借入金あり

 

その後、退院、転居(施設、高齢者向け専用賃貸住宅へ)

意思疎通ができない状態は継続

 

成年後見人として残った負債をどうする?

市長申立なので、申立まで半年以上かかり、入院は10か月に及び、多額の入院費(50万円)が未払いのまま、その間の自宅家賃(30万円)が未納のまま、プラス消費者金融数社に40万円ぐらいの借金あり

生活保護は職権(急迫保護)ではなかなかしてくれない(生活保護を受けた場合、医療費につき、健康保険が使えず、10割負担となり、後で、本人の財産が発見され生活保護を受ける必要がなかったことになると、その10割負担の医療費が、そのまま、のしかかってくる、などを理由とする)

職権で、すぐに生活保護を受けていれば入院費と自宅家賃は、これほどの滞納・未納は生じていなかったが、仕方がない・・・

市長申立の後見と生活保護 - 司法書士とくの日記(ブログ)

 

本人に財産がない場合

生活保護は、本人の生活のためのもので、生活保護を受けるまでの負債(多額の入院費、滞納家賃、借金)に(原則)生活保護費を充てることはできない。

まず、本人の生活を最優先

 

生活保護を受けている方、年金収入のみで経済的に余裕のない方など

→まず、破産申立を検討

 

自己破産申立(裁判所での手続)

・・・経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする

免責により返済義務がなくなる

免責審査のため、借金した事情を書面で詳しく説明する必要がある

ご本人と意思疎通が困難な場合、申立自体ができない場合がある

(管財を覚悟で申立てをしてみることも検討の余地はあるが・・・)

 

その他の方法が可能か検討

破産申立を含め、あえて何かする必要があるのか

債務整理としては、なにもしない(なにもできない)場合もありえる

債権者には現状を説明するしかない・・・

(対応は債権者ごと、臨機応変に)

 

債権者への通知(一例)

冠省 当職は、債務者 山田太郎氏の成年後見人に就任しております司法書士です。現在、債務者 山田太郎氏は、生活保護を受け高齢者専用賃貸住宅にて生活をしております。高次脳機能障害のため、常時介護(生活全介助)が必要で意思疎通が困難な状態であり(要介護4)、今後、就職をして収入を得る見込みはありません。財産・負債調査をした結果、財産はなく、負債総額は、約〇〇万円(〇社(者))になります。財産はなく、生活保護を受けての生活ですので返済は困難であり、また、(適切な)意思疎通ができないため、借金に至った事情がまったく判らず破産申立をすることも困難となっています。今後もこの状況は変わらないと思われます。債権者の皆様には大変ご迷惑をおかけし申し訳ありませんが、上記状況を通知いたします。草々

 

憲法25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」

年金受給権、生活保護受給権は差押禁止、生活に必要なものは差押禁止

預金口座の差押は?→もし、された場合、差押範囲変更の申立で対応

念のため(債権者に判らないような)別口座をつくり、ある程度のお金はそこにプールしておく?

改正民事執行法 - 司法書士とくの日記(ブログ)

差押範囲変更の申立(生活保護費等の入金口座が差押) - 司法書士とくの日記(ブログ)

 

そのまま、弁済しない状態が継続

ずっと弁済しない(できない)状態が継続した場合、どうなるか?

 

消滅時効の制度

弁済→借金が減る

弁済しない、弁済しない・・・弁済しない期間が継続→借金がなくなる(不道徳な制度?)

時効期間

貸金(借金)、弁済しなくなってから(期限の利益を喪失してから)5年(個人業者からの借入は10年)

病院治療費3年

家賃5年

(参考まで  新民法 知ってから5年に(できるときから10年)) 

消滅時効の援用をすれば、負債は消滅

時効中断(更新)事由(裁判、承認)

*承認、時効の利益放棄に注意(一部弁済など)

債権者からの問い合わせの際、債務の承認にならないように注意

*裁判をされて判決等を取られた場合(確定判決等)→更新で、時効期間10年に

 

消費者金融の借金については、当初、半年に1回ぐらい問合せがあったが、1年に1回になり、その後、まったく問合せはなくなり、裁判等はされることなく、債権回収会社に譲渡した旨の通知がある

 

消滅時効の援用通知(一例)*債権譲渡されている場合

御社の当方に対する「問い合わせ」(債務者 山田太郎、原債権者〇〇金融株式会社、契約年月日 平成〇〇年〇月〇日)、たしかに拝受いたしました。しかし、債権譲渡人である〇〇金融株式会社とは長期間、取引がない状態が続いていたため、貴社の山田太郎に対する債権は、消滅時効により消滅しています。よって、当方は、この消滅時効を援用いたしますので、御社の請求については応じることはできません。

令和2年10月〇日

山田太郎(住所、氏名、生年月日)の成年後見人 住所 氏名

〇〇〇〇〇番〇号 〇〇〇〇債権回収株式会社 御中